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酒場にて
何もかも上手く行かず、ひとりヤケを起こして呷る酒。そんな生活、望んじゃいないが、当分続くんだろう……
暗い酒場の片隅で、俺はそんなことを考えていた。
運気なんかじゃない、落ちてきたのは俺の力量だ。そう認めざるを得なかった。だってもう、何度目だろう……公募小説で落選したのは。
正直、才能が無いんだな……って、気付いてはいた。薄々…… でも俺は逃れられなかった。執筆することが生き甲斐なんだ!なんて、真剣に思っていた。
アハハ……馬鹿なこと、言っていたぜ。
あぁ落ちて行く。どんどん、絶望の深みに。もうそこから、這い上がることは出来ないのかな。
どん底から見上げる空は、遥か遠い彼方のような気がした。なんとか、掴んでみたいんだ、あの空を。
ところで……空って、いったい……
「どこからが空なんだろう?」
ふと頭のなかに湧いた疑問。それがつい、口から溢れ落ちてしまった。俺の頭から上、それが全部、空なのかな……
「飛びたいと思う高さ。そこから上かな…」
グラスを拭きながら、マスターが答えた。
……そうか。
空の高さって、みんな違うんだ。飛ぶことを諦めてしまえば、どんどん空は高くなって行く。当然、手なんか届かない。それが今の俺だった。
どうしようもない寂寥感を噛み締めながら、手元のグラスを眺める。
「なあ酒よ、どうしたら飛べるんだ…」
そう呟きながら俺は、じっとグラスを見つめる。
ロック・グラスは寡黙なままだった。外側の縁の結露がキラリと光る。水滴は周りの露と結びつき、そのまま下へと落ちていった。
どこか遠くで、雷鳴が轟いている。時計を見た。
「そろそろ…… 帰ろうか」
天気が急変するとは聞いていた。早く帰ることにしよう、雨が降って来る前に。
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