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君じゃない!
ガタッと馬車が大きく揺れると、うたた寝から目を覚ます。
「ん……」
いつの間に森を抜けたのか、目前には大きな白亜の城が迫っていたのだった。
(いけない! すっかり寝てしまったわ!)
ハンカチで口元を拭くと、馬車の窓を鏡代わりにして身だしなみを整える。
朝早くに屋敷を出た事もあって、すっかり寝入ってしまった。
リーザが知ったら、なんて言ってくることか……。
よく磨かれた汚れ一つない窓には、胡桃の様な明るい茶色の目に、胸元まであるコーヒー色の髪、胸元に緑の飾りボタンがついた鮮やかなオレンジ色のドレスを着た娘が写っていた。
(このドレス、似合ってない)
髪を整えながら、ふと思う。
やはり、リーザが着ているような派手なドレスはわたしには似合わない。
どうしてこんなにも違うんだろう。
同じ日に、同じ両親から生まれた姉妹なのに……。
やがて、馬車は大きな石橋の上に差し掛かった。
外を眺めていると、小さな雨粒が馬車の窓に当たったのだった。
(珍しい。この時季に雨が降るなんて……)
石橋を渡っている間に降っていた小さな雨粒は、城に着く頃には大きな雨粒となっていた。
城に着くと、出迎えてくれた若い執事が傘を差し出してくれた。
執事に案内されて大きな木製の扉の前に辿り着くと、老執事が待っていたのだった。
「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」
「お出迎えありがとうございます」
老執事に案内されて、わたしは城の中に足を踏み入れた。
すると――。
「誰だ。その娘は?」
頭上から低めのバリトン声が聞こえてきて、顔を上げる。
豪華な階段の踊り場には、左目に黒い眼帯をつけた若い隻眼の男が立っていたのだった。
(綺麗……)
輝くようなピーコックグリーン色の明るい緑の片目、カナリア色の明るい金髪をうなじで結んで肩から垂らしていた。
西国の血が混ざっているのか、綺麗に整った白皙の顔立ちは、ただ不機嫌そうに、じっとわたしを見つめていたのだった。
「誰とは、旦那様が望まれたリーザ・センティフォリア様です」
「そんなはずはない!」
震えるような怒声が城内に響き渡り、わたしは身を縮めてしまう。
「旦那様!?」
「彼女はリーザ・センティフォリアではない。よく似た別人だ!」
その言葉に、胡桃色の目を大きく見開く。
(嘘。まさか、こんなに早く見破られてしまうなんて……)
何度か口を開閉すると、ようやく言葉が出てきたのだった。
「どうして、わかったんですか……? わたしがリーザじゃないって」
恐怖から声だけでなく、手も震えていた。
それを隠すように両手を握りしめると、もう一度、口を開く。
「どうして……」
「私が求めていたのは、理想の骨格をしたリーザ・センティフォリアだ。
君の様な安産型の娘じゃない」
「あ、安産型……!?」
それだけ言うと、旦那様と呼ばれた隻眼の男性は憤慨したように階上へと戻って行ったのだった。
呆気に取られていると、傍らの老執事が謝罪の言葉を述べてくる。
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