君じゃない!

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「本来の旦那様は、とても優しいお心をお持ちです。  ですが、まだ戦争の傷痕が深いようで、なかなか他者には心を開けず、未だに独り身ではありますが……」 「そうですか。あの、リーザ宛に届いていた手紙ですが……」 「はい。旦那様が是非、リーザ様を迎えたいとお送りになった手紙ですね」 「そのお話ですが……。わたし、リーザの代わりにここに来ました。  リーザとそっくりなわたしから、代わりに侯爵様に伝えて欲しいと言われて……」  大きく息を吸うと、ホセを見上げる。 「リーザはなれないそうです。お断りします、との事です。それで、その……代わりにわたしが来ました。侯爵様の婚約者として」  そうして、わたしは目を伏せると、琥珀色の液体をじっと見つめたのだった。  数ヶ月前、センティフォリアの屋敷の中を金切り声が響き渡った。  わたしは姉のリーザに引っ張られるようにして、両親が待つ書斎へと連れて来られたのだった。 「ルイーザ、これを読みなさい」  父から渡されたオステオン侯爵家の刻印が刻まれた手紙には、センティフォリア家のリーザを、ヴィオン・オステオン侯爵の婚約者として迎え入れたい、と書かれていたのだった。 「噂はどうあれ、オステオン侯爵家は古くからこの国に仕える一族だ。領地もあれば、資産も、うちより蓄財している。リーザも幸せになれるだろう」  父の言葉に、側で泣いていた母は「ですが!」と涙声で訴える。 「オステオン侯爵は骨集めが趣味という噂ですわ。  もし、侯爵の目的がリーザじゃなくて、リーザの骨だったらどうします?  リーザの骨が欲しくて、婚約を理由に、嫁いできたリーザを殺すなんて事も……」 「良さないか!」と、父の怒声が書斎の窓を揺らした。 「それでも、婚約の話を容易に拒むことは出来ない。近年、侯爵位を賜わったばかりの我が家には、歴史あるオステオン侯爵家の話を無下に断る事は出来ないんだ……」  今でこそ、ルイーザの生家であるセンティフォリア家は侯爵家に名を連ねているが、七年前の戦争で、騎士だった父が功績を挙げたことで、侯爵位を賜わったばかりであった。 「でも、どうして私なんですか。ルイーザじゃなくて」 「ルイーザじゃなくて」というリーザの言葉に胸が痛む。  リーザがそう言いたくなる気持ちもわかる。  頭や器量が良くて、誰からも好かれてる華やかなリーザには、骨集めが趣味というオステオン侯爵よりも似合う人がきっといる。  取り立てて秀でたところのない、わたしよりもーー。 「その辺りの理由は特に書いていなくてな……。侯爵様も御歳二十九歳と聞いている。年頃の娘を探しているのだと思われるが……」 「年頃の娘なら、私じゃなくてもいいじゃないですか。ルイーザでも」 「しかし、お前もルイーザも、もう二十二歳だ。そろそろ嫁がないと行き遅れになる。これは悪い話では無いと思うんだ」  わたしも、リーザも、今年で二十二歳になる。  貴族の女性は、十九歳までに嫁ぐのが理想と考えられている中で、未婚のわたし達は行き遅れと言われてもおかしくなかった。  こうなったのも、両親が慎重な性格なのと、リーザの選り好みが原因だった。 「でもルイーザだって、このままだと行き遅れになります。私じゃなくても、ルイーザを行かせれば、侯爵様も納得されると思います」 「でもな……」 「ルイーザ、アンタからも言いなさいよ」
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