君じゃない!

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 急に促されて、「わたしは……」と口ごもる。  リーザの言う事にも一理ある。  このままどこにも嫁がなければ、リーザだけじゃなくて、わたしも行き遅れになってしまう。  また、この申し出を断ってしまえば、両親にも、オステオン侯爵家にも、迷惑をかけてしまうだろう。  それなら、わたしに出来ることは決まっていた。  顔を上げると、両親と双子の姉を見ながら口を開く。 「わ、わたしが、リーザの代わりにオステオン侯爵家に行きます……!」 「じゃあ、ルイーザ様がここに来たのも……?」 「リーザと同じ顔形のわたしなら、侯爵様も渋々、納得されるだろうと。  父も、手紙の返事には『娘を嫁がせる』としか書かなかったので、わたしが行っても大丈夫だと」  話し終えると、ホセは紅茶のお代わりを注いでくれた。  口をつけようとカップを持ち上げた時、部屋の扉が開いたのだった。 「……それは、どういうことだ」  そこには、先ほど怒声を浴びせてきた侯爵様が、眉間に皺を寄せて立っていたのだった。 「旦那様、盗み聞きとはお行儀が悪いですよ」 「お前が先ほどの無礼を謝罪するように、勧めてきたんだろう!」  憤慨しながら室内に足を踏み入れた侯爵様を、わたしは伺うように見上げる。  けれども、侯爵様が怒っているのは、リーザの代わりとして、わたしが来たことに対してではないようだった。  その証拠に、侯爵様はホセに詰め寄ったのだった。 「婚約者なんて聞いていない! 私はただ彼女の骨格をスケッチできれば良かったんだ! そういう旨の手紙を書いた!」 「その手紙なら、私が発送前に書き換えました」  その言葉に、室内の注目が老執事に集まる。 「どういうことだ?」 「言葉の通りです。旦那様が書かれた手紙をそのままお送りするわけにはいきませんからね。私の方で書き換えました。『貴女の骨が欲しい』という内容の手紙を読んで、この城に来てくれる女性がいると思っているんですか?」 「それは……」  呆れた様子の老執事と狼狽える侯爵様を前に、どうしたらいいのかわからず、わたしは困惑するしかなかった。  すると、「それに」とホセが静かに口を開いたのだった。 「そろそろ旦那様も将来を考えて下さい。  貴方はオステオン侯爵です。亡き侯爵様や兄君の分も生きて、侯爵家を守らねばなりません」 「私は結婚するつもりはない! 骨さえあれば充分だ!」  そうして、侯爵は部屋を出て行くと、乱暴に扉を閉めたのだった。 「お見苦しいところをお見せしました」 「い、いえ……」 「まだお疲れでしょう。今日はゆっくりお過ごし下さい」  その言葉に甘えて、わたしは白亜の城に滞在することにしたのだった。
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