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骨好き侯爵様の秘密
次の日、昨日から降り続いている滝の様な雨は、朝になっても降り止むことはなかった。
朝食を済ませると、その足でホセの元へと向かったのだった。
「ホセさん、わたし、一度、家に戻ろうと思います。婚約者っていう話も、勘違いだったみたいなので……」
昨晩、侯爵様から「婚約者ではなく骨をスケッチさせて欲しかっただけだ」と言われてからずっと考えていた。
元々、わたしは侯爵様から婚約の申し出があったリーザの代わりとしてここにやって来た。
けれども、婚約は勘違いだったと分かった以上、この城に滞在する必要もなかった。
「すみません。こんなことを言って……」
「とんでもございません。雨が止み次第、帰りの馬車を手配しましょう。それまでは、当城でごゆるりとお過ごし下さい」
外は土砂降りの雨が降り続いていた。
この雨では道は泥濘み、馬車が走れないだろう。
ホセの言葉に、わたしは甘えることにしたのだった。
「あの、帰る前に侯爵様にご挨拶をしたいのですが……」
「旦那様は部屋から出て来られません。
私も先ほど追い返されました」
どうやら、侯爵様は部屋にこもったまま、話しかけても取り付く島もなく追い返されたらしい。
「そうでしたか……。それなら、また帰郷の直前にでも訪ねてみます」
「そうしていただけますと助かります。必要なものがありましたら、何なりとお申し付け下さい」
どことなく弱り切った様にも見えるホセを見送ると、わたしは与えられた客間に戻る。
客間の窓辺から陰霖を眺めながら、雨が降り止むのを待ったのだった。
けれども、夜になっても雨は止むこと
はなく、そのまま滞在することになったのだった。
この城に来てから三日目。
昨日と比べて随分と弱くなった朝雨を眺めていると、ホセがやって来たのだった。
「おはようございます。ルイーザ様」
昨日にも増して弱りきった顔をした老執事は、急に頭を下げてきたのだった。
「申し訳ございません。帰郷の件でございますが……。昨晩、城近くの川が水位が上がり、氾濫の恐れがあると報告がありました」
城近くの川とは、この城に来る時に通ってきた大きな石橋の下を流れている川のことだろうか、とわたしは考える。
「氾濫、ですか?」
「ええ。ここ二日間の豪雨で水位が急激に上がってしまったようでして……。
雨は弱まりましたが、いつ氾濫してもおかしくない状況ですので、ルイーザ様には引き続き、ここに滞在していただきたいのです」
「それは構いません。ですが、侯爵様が許していただけるかどうか……」
「それでしたら、既に許可はいただいております。ルイーザ様の身の安全を図る方が優先であると」
「あの、今朝の侯爵様は公務を……?」
「旦那様は部屋から一歩も出ておりません。今朝方も朝食を運びましたが、また召し上がらないまま下げたところです」
わたしは胡桃色の目を大きく見開いた。
「二日も部屋にこもっているんですか!?」
「珍しい話ではありません。昔から侯爵様は一つのことに夢中になると、寝食を忘れる有様でして……」
このまま、お世話になってばかりいるのも肩身が狭かった。
(何かわたしに出来ることはないかしら……?)
その時、ふと思いついたのだった。
「あの、ホセさん。お願いがあるんですがーー」
わたしはとある提案をしたのだった。
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