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ホセから侯爵様の部屋を教えてもらうと、わたしは扉を叩いた。
「誰だ?」
「ルイーザです。お食事をお持ちしました」
「何も食べる気がしないんだ。悪いが、帰ってくれないか」
「せっかくなので、侯爵様が集めていらしている骨について教えていただきたいんです。わたし、骨に興味がありましてーー」
すると、部屋の扉が少しだけ開くと、明るい緑色の隻眼の下に隈を作った侯爵様が顔を出したのだった。
「骨に興味があると言ったか?」
「はい。なかなか見る機会がないので、ぜひ見てみたいと思いまして……」
わたしが抱えるお盆の上には、侯爵様が手軽に食べられるように、野菜や肉などを挟んだ小さく切ったパンを並べた皿と、熱々のスープを入れたスープ皿が乗っていた。
それを見た侯爵様は、喉を鳴らすと、部屋の中に通してくれたのだった。
「別にわざわざ部屋に持って来なくても、腹が減ったら食べるというに……」
「みんな侯爵様が心配なんです。私が来てから何も召し上がっていないんですよね」
盆を受け取った侯爵様は、窓辺に置いていた椅子に座ると、すぐにパンに齧り付く。
やはり、空腹だったらしい。
その間に、わたしは部屋に飾られている骨を眺めていたのだった。
「これは……動物の骨ですか?」
「そうだ。動物以外にも、魚類もあるぞ」
「すごいです! まるで都市部にあるという博物館みたいですね」
「君は博物館に行ったことがあるのか?」
「わたしはありませんが、姉が……リーザが行った事があるそうです」
友人が多いリーザはよく都市部にも出掛けており、博物館にも行ったことがあると話していた。
リーザは「あんな場所、古臭くて、埃ぽくて、静かでつまらなかったわ」と話していたが、わたしはそういう歴史的な場所が好きなので、いつか行ってみたいと思っていたのだった。
「私も行ったことがないんだ。侯爵家を継いでからは一度も」
「じゃあ、いつかお出掛けに……」
「いや。私は行けない。人が多い場所は苦手なんだ」
「わたしも苦手です」
そこで初めて、侯爵様はわたしをじっと見つめると、「君も?」と呟いたのだった。
「昔から、リーザと比較されていたので……。それで苦手になりました」
双子の姉のリーザは、昔からわたしと違って、器量や性格も良く、友人がたくさんいる。
貴族が主催するパーティーにも、よく誘われて出掛けていた。
それに対して、わたしは取り立てて良いところは何もなく、友人も少ない。
たまにパーティーに呼ばれても、「姉のついで」か、「姉の代わり」に誘われることが多かった。
わたしの話を聞いた侯爵様は、空になった盆を置くと、「私も」と口を開く。
「子供の頃から、何かと出来の良い兄と比較されてきた。だから、兄が死んだ時、安心したんだ。もう比較されなくていいと」
「侯爵様……」
「それに。私は目の前で火に包まれた兄を見捨てて逃げたんだ。あの戦争の時に」
侯爵様はそっと目を伏せたのだった。
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