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「あなたごときの力で、陰陽師の長を害せると思ったのですか?」
滑るようになめらかな動きで、真継様が近づいて来る。
怖い。
真継様を怖いと感じる日がくるなんて思わなかった。
肉食獣に睨まれた小動物のように動けない。
「十二年前。とある村に鬼の親子が住んでいると聞き、いつものように親を殺して、子供を奪おうと、陰陽師数人で村に向かった。お前の母親は、それを察知し、私たちを殺そうと襲ってきましたが、力及ばず、私たちに打ち取られました。子供を探して、村に辿り着いてみれば、この上なく美しい幼女がいるではないですか。鬼の子供は稀少です。しかも美しいときている。年頃になるまで育てれば、価値が上がると思い、手もとに置いてきました。あなたは素直で、私を盲目的に信頼した。それなら、私が可愛がってやっても良いかという気になっていましたが、反抗するなら、もういりません」
真継様の言葉に、私は息を呑んだ。
お母さんを殺した……?
「千代、お母さんは、少し出かけてきます。千代は絶対にこの家から出ては駄目。誰か来ても戸を開けてはいけません。お母さんは必ず戻りますから、いい子で待っているのですよ」
母の言葉が脳裏に蘇った。
ああ、そうか。お母さんは、私を陰陽師から守ろうとしたんだ。
一気に、かつてあばら屋で起こった出来事を思い出す。
真継様は、残された鬼の子である私を攫いに来たんだ。それを助けようとしてくれたのは炎華。でも、真継様たちに撃退されて、私を置いて逃げるしかなかったんだ……。
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