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「ねえ、炎華、色々と聞きたいことがあるのだけど……その前に、下ろしてくれないかな……」
炎華に抱かれていることを思い出し、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。炎華の腕の中で身じろぎをしたら、
「こら、動くな。危ない」
炎華はますます私の体を強く抱いた。
「話ならこのまましよう」
私を離すことなく、炎華は腰を下ろした。膝の上に私を座らせ、肩を抱く。
こ、この体勢……恥ずかしい……。
心臓がどくどくと脈を打っている。こんなに密着していては、炎華に気付かれてしまうかもしれない。
「さて、何が聞きたいんだ?」
私が動揺していることに気付いているのか、炎華が面白そうに目を細めた。
「十二年前の雪の日、炎華は私を助けに来てくれたのよね」
印象的な金色の瞳を、どうして私は今まで忘れていたのだろう。
炎華は苦々しげな表情になると、「あの時のことか」とつぶやいた。
「俺以外の鬼がまだ存在すると噂で聞いて、会いに行ったんだ。だが、一歩遅く、その鬼――お前の母親は、陰陽師によって殺されていた。彼女は最期に、俺に、『一人娘、千代のことを頼む』と言い残した。『娘は半分人間で、なんの力もない弱い存在だから』と」
「えっ……」
新たな事実を知って、目を丸くする。
「半分人間って?」
「お前の母は鬼だが、父は人間だったんだよ」
顔も覚えていない父が、鬼の母と結婚していたと知って驚く。
人は異質な者に対して敏感だ。母は、自分が鬼だということを隠していたに違いない。けれど、周囲の人は、母に何か普通とは違うものを感じ、迫害したのだろう。
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