亰都大正あやかし奇譚

50/52
400人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「ねえ、炎華、色々と聞きたいことがあるのだけど……その前に、下ろしてくれないかな……」  炎華に抱かれていることを思い出し、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。炎華の腕の中で身じろぎをしたら、 「こら、動くな。危ない」  炎華はますます私の体を強く抱いた。 「話ならこのまましよう」  私を離すことなく、炎華は腰を下ろした。膝の上に私を座らせ、肩を抱く。  こ、この体勢……恥ずかしい……。  心臓がどくどくと脈を打っている。こんなに密着していては、炎華に気付かれてしまうかもしれない。 「さて、何が聞きたいんだ?」  私が動揺していることに気付いているのか、炎華が面白そうに目を細めた。 「十二年前の雪の日、炎華は私を助けに来てくれたのよね」  印象的な金色の瞳を、どうして私は今まで忘れていたのだろう。  炎華は苦々しげな表情になると、「あの時のことか」とつぶやいた。 「俺以外の鬼がまだ存在すると噂で聞いて、会いに行ったんだ。だが、一歩遅く、その鬼――お前の母親は、陰陽師によって殺されていた。彼女は最期に、俺に、『一人娘、千代のことを頼む』と言い残した。『娘は半分人間で、なんの力もない弱い存在だから』と」 「えっ……」  新たな事実を知って、目を丸くする。 「半分人間って?」 「お前の母は鬼だが、父は人間だったんだよ」  顔も覚えていない父が、鬼の母と結婚していたと知って驚く。  人は異質な者に対して敏感だ。母は、自分が鬼だということを隠していたに違いない。けれど、周囲の人は、母に何か普通とは違うものを感じ、迫害したのだろう。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!