1章:オフ会で知人に出くわすことは、まれによくある

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1章:オフ会で知人に出くわすことは、まれによくある

 エアリアスの地を離れ、異世界である地球にやってきてから数年。視界を埋め尽くすものは緑ではなく(そび)え立ち並ぶビル群に変わったが、今日の天気はあの日のことをどことなく思い出させるものだった。  かつての仲間の顔が浮かぶ。彼女は幸せに過ごしているだろうか。地球にやってきて色々と苦労もしたが、善い人に巡り合えたこともあり、なんとかこっちの文明にも慣れることができた。彼女も同じだといいなと、そう祈ってみた。そして叶うことなら――  ……理解している。同じ世界に転移して、さらにもう一度巡り合う可能性がどれだけ低いかなど。だが、この懐かしさが小さな期待を抱かせてしまう。それに、可能性が全くのゼロというわけでもない。  今日の集会はオンラインゲームのオフ会なのだが、ゲーム内でのコミュニケーションで、もしかしたら、という発言を何度かしていたことがあった。残念ながらテキストでしか会話をしていないから確信はないが、一日の期待程度ならば許されるのではないか。  もちろん、ゲーム内で知り合った仲間たちと会うことができるというオフ会そのものを純粋に楽しむ気持ちが一番だ。そうでなければ失礼にあたるというもの。だが、声にも顔にも出さないのだから、胸の内で期待をすることだけはせめて許してほしいものだ。  待ち合わせ場所は駅から少し離れたところにある公園の噴水前。まだ集合時刻より30分は早いから、一番乗りだろうか。電車の仕組みに不慣れだから早めに出発したが、杞憂に終わったようだ。  麗らかな日差しと穏やな風に包まれる。……ふと、懐かしい感覚がした。まるで世界から音が消えてしまったようだ。木々が揺れ、遮られていた光が視界を照らす。待ち合わせ場所の目印に設定した噴水の前には……見間違えるはずもない、よく知った顔があった。 ──燃えるような赤い髪 ──賢しさが醸し出す理知的な瞳 ──  そう。忘れるはずもない。彼女は────   「ま、魔王……ッ!?」 「ゆ、勇者……ッ!?」  ──彼女は。我が故郷を滅ぼした憎き仇敵の姿――魔王がそこにいた。
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