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「勝どうした、最近業績が思わしくないぞ」
体調が悪いのかと、そう心配そうに顔を覗き込んでくる父は、大手精密機器メーカー『ヴォルテックス』の偉大なる社長。
私、柏木優はすこぶる出来の良かった双子の兄、勝の死後、錯乱した父に勝として生きていく事を余儀なくされてしまった。たった今、父が私の事を勝と呼んだのはそういう事だ。
きっと父は、ゆくゆくは後を継ぐはずだった兄の死を受け入れられなかったのだと思う。
ヴォルテックスは曽祖父の代から息子が跡を継ぎ大きくしてきた会社。勝の存在が無くなった今、残された子供は私と妹の渚だけ。女しか居なくなった柏木家に父は随分と焦っていたようだ。
納得?
そんなものはしていない。いつか結婚して幸せな家庭を築くものだと思っていた。小さな子供達の手を引いて散歩をしている、そんな平凡な日々を夢見ていたのに、兄の死を境に状況は一変。私の夢は偉大なる父の大きな期待と圧力で見事に封じ込められてしまった。
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