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再会
「莉玖。」
桐生望は、見覚えのあるその背中をポンと叩いた。
振り返った男は、目を丸くする。
「…桐生?」
仔猫のように丸くて大きな目は、相変わらずだと思った。
「桐生じゃん!久しぶり。」
坂井莉玖は立ち上がって、桐生の腕を掴んだ。
「え、何で?ここに?」
笑った顔も相変わらずだ。
「新婦が会社の部下でさ。」
「マジ。新郎は俺の友達。」
「え、すごいな。偶然。」
顔を見合わせて笑う。
一気にあの頃に戻ったようで、胸が高鳴る。
「もう披露宴始まっちゃうよな。桐生、後でまた話せる?」
莉玖からの、思いがけない嬉しい申し出に「あぁ」と返事をして、桐生は自分の席に向かった。
10年、だろうか。高校を卒業して。
桐生と莉玖は、高校3年間を共に過ごした親友だった。
今日は部下の女子社員の結婚式に招待された。一応、直属の上司として祝辞を述べなければいけない。こういう場はここ1、2年で何度か経験しているので慣れたものだ。
そして、正直退屈なチャペルでの式の最中に、新郎側に座っている莉玖を見つけた。
濃紺のスーツにライトグレーのネクタイを締めた莉玖はとても大人びていて、すぐには気づかなかった。
いや、もう28なのだから十分大人なのだが、高校の制服のイメージしかない桐生にとっては、まるで別人に見えた。
高校卒業後、莉玖とは同じ大学に進んだ。
最初のうちは頻繁に連絡を取り合って遊んだりしていたが、2年生になった頃には学部が違うこともあり徐々に疎遠になった。そして、桐生が大学を中退したことをきっかけに連絡することもなくなっていったのだ。
だから、莉玖が今どこに住んでいて、何の仕事をしているのかも知らない。
桐生は、離れたテーブルに座る莉玖を見つめた。隣に座っている男と、何やら楽しそうに話している。友達だろうか。
そうだ。あの笑顔。
莉玖はいつもあんなふうに笑っていた。
俺の横で。
変わらないな、と思い、桐生は少し寂しくなった。
もう、莉玖が俺の横であんなふうに笑うことはないのだろう。それはきっとあのキスのせいかもしれない。
高校時代、桐生と莉玖はキスをした。
一度目は莉玖から。
二度目は桐生から。
そしてその二度目のキスの意味を、莉玖は知らない。
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