カブトムシの箱

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「女子グループか」  バンッと机を叩いて別所が言った。 「俺は。加藤。お前がアミを殺したようなもんだと思ってるぜ!」 「どういうこと?」 「お前、女子グループに自分がモテているって自覚してたんだろ? そして、自分に悪口を言ってアミの好感度を下げようとしていたことも。なら、アミがその女子グループに嫌がらせを受けていたことを知ってるか? 俺は知ってる。何度かその場を目撃したからな。その時は止めに入ったが、アイツらはやり方が陰険だからな。  傷は見えない場所につけていたし、俺が一度止めに入ってからは女子トイレや更衣室で嫌がらせを繰り返していたみたいだ。俺には入れないような場所で隠れてな。  何度もアミに問い詰めたが、あいつはイジメを認めなかった。告発すればイジメている奴らの将来に響くし加藤にも迷惑がかかるかも知れないってな。お人好しにもほどがあるだろ。  イジメはどんどんエスカレートしていったみたいだった。俺も詳しくは知らない。アミが話してくれなかったからな。ただ日に日にあいつは憔悴していったんだ。  卒業式の日、アミは高校生じゃない女どもの囲まれているのを俺は見つけたんだ。もちろん追い払ったさ。でも気がついちまったんだろうな。高校を卒業しても終わりじゃないんだって。高校を卒業しても今度は別の女どもがまた嫌がらせをしてくると気がついて緊張していた糸が切れちまったんだと思う。  アイツは大人っぽく振る舞ってたが本当は子供みたいに無邪気なやつだったんだ。保育園に行った時見ただろう。子どもたちあと遊ぶ無邪気なアイツを。あいつの柔らかい心を壊したのはお前だよ」  叫ぶように言って立ち上がる別所に、俺は叫んだ。 「座れ別所!」 「あ!? ナンだよ。コイツの味方すんのか? 確かに加藤は悪くはないかもしれねぇけどよ。原因はコイツにあるんだ。悔しくねぇのかよ」  どいつもこいつも。何を言っているんだ。アミの何を見てきたんだ。お前たちの見てきたアミは全然アミじゃない。お前たちの理想をアミに押し付けるな。俺は内ポケットに入れていた白い封筒を取り出しテーブルの上に置いた。三人が目を向いてその封筒を睨みつける。 「それは、アミの遺書だ。そこに自殺した理由が書かれている。今日届いた。なぜ、俺かこんなものを持っているかって? それはみんなは知らなかっただろうが、俺とアミは恋人同士だったからだ。そこにははっきりと書かれているぞ。別所。お前に暴行されたってな」 「なっ!?」  別所の顔が蒼白になる。加藤と土井が睨みつける。 「否定しないんだな。まぁしても無駄だけどな。この遺書は手書きで書かれている。アミの字で間違いないよ。なんなら確認してもらってもいい。お前は保育園に行ったあの日の帰り、アミに告白したらしいな。そして、振られた。しょうがないよな。俺と付き合っていたんだから。それを知ったお前は怒りにまかせてアミを襲った。そして逃げたんだ。  次の日、怯えていたんだろお前は。とんでもないことをしたと分かっていたはずだ。確かにお前の言うとおりアミはお人好しだったよ。お前を告発することはなかった。お前の将来のことを考えたのかもしれない。何も言わないアミにお前は安心したんだろ?  でも、アミの心は深く傷ついていた。卒業すればもう、お前と会うこともないと思っていたんだろうな。  でも、卒業式の日お前に助けれて絶望したんだよ。お前は卒業してもつきまとう気だって。それに気がついて。アミは命を絶った。でも、安心するなよ。アミはお前に復讐したいと考えていたんだ」  俺は立ったまま物言わなくなっている別所を見る。別所はいつの間にか目を見開き喉をかきむしるようにして咳き込む。口から大量の血を吐いて床に倒れた。床に真っ赤な池が広がっていく。 「遅効性の毒だよ。遺書と一緒に今日届いた。成人式の日に別所に飲ませてくれって書いてあったよ。お前が飲んだワイン。あれの中に入っていたんだ。苦しみ抜いて死ねよ」  達成した。達成した。達成した。アミの意思をついで俺は復讐を果たしたんだ。加藤と土井が俺を見つめていた。その目は恐怖で染まっていた。仕方がないだろう。今俺は人を殺したのだから。 「警察に通報してくれていい。俺は逃げないから」 「違っ」  加藤が何かを言おうとして手を俺に伸ばし、そのまま床に倒れる。口からドクドクと血が流れていた。  は?  俺が毒を飲ませたのは別所だけのはずだ。 「死にたくない。死にたくない。死にたくない」  ブツブツと頭を抱えていた土井が咳き込んだかと思ったら血を吐いて倒れた。 「なにがどうなって」  げほっ。自分の口から咳が出た。何度も。胃の中から鉄臭い味がせりあがってくる。力が入らない。  血を吐き出した。服が真っ赤に染まる。どうして。俺はワインなんて飲んでないのに。  朦朧とする意識の中で同じように倒れる三人を見ながら俺の意識は途切れた。
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