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家に着く頃には、シルバーマンのこともスプーンのことも、そしてあの子のことも綺麗に忘れてしまっていた。
私、こんな時間まで何をしていたのかしら、と首をかしげる。そういえば、夫はどうして出て行ったんだっけ。子供ができなかったせいかしら。
家には明かりがついていた。
なんだ。ただのケンカだったのね。あの人、帰ってきてるじゃない。
──玄関先に、警察官が二人いた。
「……え?」
「村田とも子さんですか?」
呆然とする彼女を囲んで、警察官がわけのわからないことを話し始める。
私に娘がいた? 村田ひな子ちゃん? 亡くなった? どうして? 交通事故? ……食中毒? お誕生日の夕食を食べて、お腹が痛いと吐いて、病院で亡くなったの? ……そんな。人違いでしょ。うちに娘なんて……殺した? 私が? 嘘でしょう。
旦那さんは気づいていたんだよ、もう諦めるんだ、と警察官が言った。あの子の使っていた食器から、フォークから、洗剤がたっぷり検出されたんだと。あぁ、こんなことなら全部捨てておけばよかった。……違う、何? 私は殺していないはずじゃない。殺した記憶がないじゃない。殺したのなら、全部捨てておくはずでしょ。
私はどうして捨てなかったの? まるで、自分が殺したことを忘れていたみたいに。
そのとき、誰かの言葉が脳裏をよぎった。
──二度目のご利用、ありがとうございます。
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