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「……だからね、姫乃。ちゃんと……するの。ほら、美波とのお約束」
その約束を言った時、親友がどんな顔をしてたか思い出せなくって、それでこれが夢だって分かった。
分かった瞬間、ふっと目覚めた。
ベッドの上に眩しい朝日が差し込んでいる。私は身体を起こすと、伸びを一つした。
あの時、美波はなんて言ったんだったっけ?
二学期の始業式直後にある実力テスト。数学の問題を解く手を止めて、私は窓の外を見た。
夏の終わりか、秋の始まりなのか? 随分と涼しくなった風が吹いて、夏の光より少し優しい日差しが、誰もいない運動場を満たしていた。
美波が言ったのは、結構重要な言葉だったような気がする。だって、その言葉について私には珍しくずっと考えていた覚えがあるから。
……私の親友だった美波は、小五まで私の隣の家に住んでいた。母一人子一人の母子家庭だったからか、美波は年齢よりかなり大人びていて、あの言葉も小五の子が言うような台詞ではなかったはずだ。
私は美波と何を約束した?
思い出せなくて、美波に聞いてみたいような気もした。でも、小五の春、ここよりもっと都会の街に越していった美波の連絡先を、私は知らない。
元のお父さんの暴力から逃れるための引っ越しだったことは、後から知った。
……だから、私の周りに美波の連絡先を知っている人は誰もいない。
方程式に戻ろう。美波との約束は後でゆっくり思い出せばいい。
とは思ったもののその後も、本当に最後の別れ際に言われた、親友の言葉は一向に思い出せなかった。
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