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「大人になったらみんなで酒を飲もうぜ」
高校の卒業式の日、別れ際に小学校時代からの腐れ縁の俺たち4組はそんな約束を交わして別れた。
就職だったり進学だったり、いつも一緒だった俺たちはそれぞれの道を歩み出した。みんなそれなりに忙しくて全員が揃う機会なんかすっかり無くなってしまったけれど、それでもちょくちょく連絡は取り合っていて、やはりそう簡単に腐れ縁が切れるなんて事は無かった。
月日はあっという間に過ぎ去って、俺たちは大人になった。
そして今日、あの日の約束を果たす為に久しぶりに集まっていた。セミが忙しなく鳴き、ジリジリと夏の日差しが容赦なく降り注ぐ昼下がり。場所は地元の木々に囲まれた墓地で日差しは多少はマシだった。
腐れ縁4人組は不慮の事故で一人が欠けて、3人組になっていた。
「いや、ほんとお前らあの時から全然変わってないな。久しぶりって気がしないぜ」
俺は集まった連中があまりにも高校時代から変わらな過ぎて思わず笑ってしまった。それから少しの間、くだらない話で盛り上がる。そしていよいよ我慢できなくなったのか1人が持ち込んでいたコンビニ袋からキンキンに冷えたビール缶を取り出した。
「ま、そろそろ一杯やっとこうぜ」
その言葉でいよいよこの時が来たとばかりに全員のテンションが上がる。手慣れた手付きで全員にビール缶が配られるとそれぞれがビール缶の飲み口を開けていく。
カシュ
気持ちのいい音が連鎖するように鳴り響く。乾杯で缶をぶつけ合う鈍い音がセミの声にかき消されていたが、そんな事お構いなしに全員がビールを喉に流し込んでいく。ぷはぁという誰かのよく通る声が聞こえたかと思うと再び全員くだらない話に花を咲かせ始める。
「全員揃っていれば言うことなしだったんだけどな」
ふいにそんな言葉が飛び出して、どことなくしんみりとした空気がその場を包んだ。あの日に約束した「大人になったらみんなで酒を飲もうぜ」という約束のみんなというのが二度と叶う事がなくなってしまった。その事実が重くのしかかっていた。
「おいおい、せっかく集まったんだからそんな辛気臭い顔すんなよ」
俺はそのしんみりとした空気に耐えれなくそんな事を言う。
「やっぱいつもみたいに騒いでた方がいいよな。どうせアイツもちゃっかり混ざってるだろ。だから墓参りを兼ねてアイツの墓に集まったんだからさ」
俺の意を汲んでくれたかのようなフォローに俺は安堵した。このまま葬式みたいな雰囲気になったらたまったんもんじゃない。墓の前でしんみりされるよりもくだらない話で盛り上がっている方が俺たちらしい。
「それもそうだな。よっしゃ! 飲むぜ!」
「ほーら、お前も飲め飲め!」
それからはしんみりという言葉からは無縁に、いい年した大人たちがまるで子供みたいにはしゃぎながら酒を飲みかわした。やっぱり俺たちはこうじゃなきゃな。これなら俺もわざわざ遠くから戻ってきたかいがあるってものだ。相変わらず元気な奴らを見てしみじみと俺は思った。そんな楽しい時間はいつもあっという間に過ぎ去ってしまう。今回のこの集まりもついにお開きの時間が来た。
「久々にお前らに会えてよかったよ」
「全然変わってなくて安心したぜ。 誰も彼女持ちがいないのも安心したわ」
「ある意味、由々しき事態だな」
ダラダラと後片付けをしながらそんな他愛ない話を続けている。誰しもがやっぱり名残惜しいのだろう、しかしやがて片付けもすっかり終わってしまって別れの時が訪れる。3人は墓石の前に立つと、手を合わせて別れの言葉を告げる。
「また来年も来るからな、覚悟しとけよ? ……じゃあな」
こうして3人になった腐れ縁たちは墓を後にして各々の日常へとまた戻っていく。
「おう、待ってるぜ」
そう言って、去っていく3人の後姿を俺は見送った。セミの音がよく響く、晴天の日の事だった。
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