13/18
前へ
/18ページ
次へ
 「ありがとうございましたー」  店員さんの疲れた声に見送られて、私はコンビニを出た。その瞬間、むわっとした熱気に包まれる。エアコンの効いた店内から、熱帯夜に逆戻りした。  今年の夏も平年通り、日本はうだるような暑さに見舞われている。私はエコバックを片手に、夜道を歩く。早くも首すじに、うっすらと汗が滲んだ。  夏休みも、もう中盤。息の詰まるような蒸し暑さに負けて、私は基本的に、家からほぼ出ずに、日々を過ごしている。素晴らしきインドア生活だ。  学校の図書室から10冊、市立図書館からも10冊、合計20冊、本を借りてあるので、毎日読書三昧。こんなに幸福なことはない。  ではなぜ今、こんな蒸し暑い夜道を歩くことになっているのかというと、お母さんの命令だからである。  お母さんは私のインドア生活が、本当に嫌みたいだ。おつかいに行ってこいとか、出かけるから荷物持ちについてこいとか、なにかと私を外に出そうとする。   親に命令されるのは、腹が立つけど、ずっと家でのんびりしていると、体力が劇的に落ちる。ほんの少しの距離を歩いただけで、萎えた両足が、小鹿みたいにぷるぷる震えだすのだ。あの震えは実際、ちょっと怖い。  だから、体力作りのために時々は、外出するようにしていた。  今日もおつかいを頼まれて、私はほぼ5日ぶりに外に出た。すでに日は落ち、街灯や店舗の明かりが煌々と夜道を照らす。  お母さんは昼間に行くように言っていた。でも、真夏の太陽が放つ直射日光を、浴びる自信が私にはない。5分も経たない内に、熱射病で倒れる未来が見える。そんな危険を犯す気はなかった。  エコバッグを持つ手を反対にする。バッグのなかには、720ミリリットルの野菜ジュース1本、ヨーグルトが2つ。まあまあ、重たい。    自転車で来ればよかった。  私が、悔やみながら歩いていると、浴衣姿のお姉さんとすれ違った。  綺麗に結いあげた髪に差す、銀色のかんざし。水色の地に、白ぶどうが鈴生りになっている涼しげな柄の浴衣に、オフホワイトの帯を締めている。  これぞ、浴衣美人って感じだ。  今夜は、お祭りでもあるのかな。この近くだと、神社か、隣町の商店街。あと、川向こうの地区で、毎年観光客が訪れるような、大きなお祭りが開かれているらしい。きっと、この中のどれかだろう。  お祭りがやっていることは知っていても、日にちまでは知らない。    
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加