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 「久しぶり」  相川がそう言って、私から少し間隔を空けて座った。うつむき加減で、夏休み前よりも伸びた前髪が、相川の視線を隠す。  相川に軽く見惚れていた私も、一気に気持ちが萎む。  やっぱり、まだ気まずいんだ。本当に、どうしたらいいんだろう。もう、友達ではいられないんだろうか。  「「……」」  無言。  一緒にいて、あんなに気楽な相手はいなかったのに。今では、一番居心地の悪い存在になってしまった。  私は手持ち無沙汰になって、スニーカーのつま先を、ぶらぶらと動かす。  「ねえ、」  呼びかけられて、相川に視線を移した。  目が合う。  相川が、やけに辛そうに表情を歪ませている。さっと、すぐに私から視線を逸らした。  「ごめん。もう友達じゃいられない」  相川が言った。  全身の力が、抜けたような気がした。  やっぱり、そうなんだ。駄目なんだ。  しょんぼりと項垂れる。  頬を触られたくらいで、あんな過剰反応しちゃったから、私が相川を好きだって、気づかれてしまったんだ。  嫌われた。元には戻れない。喪失感に容赦なく、胸を抉られる。  もう心臓も騒がしくないし、緊張もない。胸の中が空っぽになってしまった。  「ごめん」  相川がベンチから立ち上がった。  本当にこれで、終わり?  それならば、最後に一つ、どうしてもしたい事がある。  「待ってよ」  私もベンチを立つ。相川がぎこちなく首を動かして、私の方を向いた。  ぺた。  私の伸ばした手の平が、相川の頬に合わさる。  相川の顎はシャープな形をしている。頬が薄いせいで、硬い顎骨の滑らかな曲線を、感触としてはっきりと感じた。  「お返し」  私は口角を上げて、何とか微笑むことに成功した。もう一生、こんな機会はないのだから、思い出に、頬を触り返してやりたかった。  相川は、これ以上ないくらい目を見開いて、硬直している。そしてほんの微かに、相川の全身が震えているように見えた。  そんなに嫌だった?  そう思った瞬間、相川の大人びた顔が、ぱあーーっと真っ赤に染まった。夜の暗がりでもわかるほど、鮮明な赤である。見開いていた目も、潤いに満ちて、生き生きと輝きだした。  え、何。どうしたの。  私は相川の頬から、手を離そうとした。しかし、その手を、相川にしっかりと掴まれる。熱っぽく潤む瞳が、完全に私を捉えている。  「嫌、じゃない?」  相川が真剣に尋ねてくる。  「何が?」  私は首を傾げた。  「え?」  「え?」  お互いに、しばらく見つめ合う。  周りの景色が遠ざかり、相川しかいないような、錯覚に襲われる。  相川が近づいてくる。今度はあの日みたいに、不安を感じなかった。もしかしたら、私の方から、近づいているのかもしれない。  相川の腕が、私の背中にまわる。私たちはいつの間にか、抱きしめ合っていた。          
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