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 その瞬間、ガツンと衝撃がきた。  力強く太い男性の歌声と共に凄まじい爆音が、鼓膜から脳に向かってレーザービームのように一直線に貫かれる。  あんなに小さなイヤホンが鳴らしていると思えないほどの、耐え難い大音量。心臓が飛び出そうになるほど驚いて、私はすぐさまイヤホンを耳からむしり取った。  「どうした、」  きょとんとした相川が、目を丸くしている。  「びっっくりしたっ。音、大きすぎじゃない?」  爆音によるショックが、耳に残っている。私は頭を何度か振って、音を追い出そうとした。  「そうか?自分じゃあんまり……。じゃあ、これはどう」  相川がスマホを操作する。  「……」  私は迷った。また大音量で驚かせるつもり、だったりして。相川ならあり得てしまう。いたずら好きにはまず、疑ってかかるべきだ。痛い目を見たくないのなら。私が動かずにいると、  「平気だって」  壁にもたれていた背を起こして、相川がこちらを向く。私の手から、いとも容易くイヤホンを取った。  「ほら」  イヤホンを摘まんだ指先が、私の耳に押し当てられた。  微かに、ゆったりとした優しいピアノの音が聞こえる。さっきの爆音とは全く違う曲だ。音が遠くて聞こえずらいけど、穏やかな雰囲気が感じられた。  私は疑ったことを反省した。イヤホンを受け取り、素直に付ける。  「あれ。もしかして、歌ってるの同じ人?」  この太い歌声は、聞き覚えがある。ついさっき、私の耳を大音量で殴りつけてきた、あの歌声だ。すごく攻撃的な声だったのに、この曲だと情感たっぷりな、甘い歌声になっている。  「そう。ド派手な曲が専門のバンドなんだけど、こういうバラードもいけるんだ。多才だよな」  相川が、まるで自分の事のように、誇らしげに頷く。  バンドの名前を聞こうとして、やっぱり止めた。そういえば前に、好きなバンドだと何度か教えてもらったことがある気がする。また、名前を覚えられないって話に戻ってしまうから、黙っておこう。        
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