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静かな雨音が、放課後の校舎を包みこんでいる。
今日は整備委員の集まりがあり、帰るのが遅くなってしまった。正面玄関に向かっていた足を止め、私は窓越しに校庭を眺めた。
サッカー場もテニスコートも、見事なまでの水浸しだ。誰もいない。平らな雲に埋め尽くされている薄暗い空。踏み入れたら最後、ローファーだけではなく白い靴下も沈むであろう、深い水たまりが、どんどん地面を侵食し、広がっていく。
本格的な梅雨の到来だ。
雨は休むことなく降り続けている。
私は困っていた。
傘を忘れたのだ。朝は雨が降っていなかったし、雲間から太陽も出ていたので、油断してしまった。
窓ガラスに写る自分を何気無く見ると、ショートボブの髪が一房だけ、ひゅんっ跳ね上がっている。
普段はきちんと、内巻きになっているのに。確実に湿気のせいだ。
「はあー……」
溜め息が出てしまう。
試しに手櫛でといてみたが、跳ねた髪は頑固に戻らない。無駄な足掻きに終わった。
灰色がかった雲の層は分厚く、学校で立ち止まっていても、雨は弱まりそうもない。
もう、濡れる覚悟で学校を出ようかな。
でも、ずぶ濡れ状態で、混んでる電車に乗るのって、すごく恥ずかしい。他の乗客の人達な迷惑になりそうで嫌だし……。
考えがぐるぐる回って、踏ん切りがつかない。
頭を抱えていると、制服のブレザーのポケットに入れっぱなしにしていたスマホが、断続的に震えだした。
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