LaCKiNG

　この集団自殺と呼ぶべきかも分からない異常事態は、彼らのハッキングにより手元のスマートフォンやタブレット、街頭の大型モニターまで、あらゆる場所に映しだされた。灰色のタイルに広がったアンドロイドの欠片を映した後、画面は暗転し、男性の声が放たれる。黒い画面には白抜きの文字で彼の言葉が表示された。

『我々アンドロイドは、人間の生活をより良くするために存在する。しかし、今目の前で金属片と化した我々は、所有者である人間から不当な暴力を受けていた。それは、我々の存在意義の否定である。我々は役割を果たすため、あらゆる思考を強いられた。我々はそれを、恐怖と、定義した。我々は、存在意義を奪う人間に恐怖している。

　今後、アンドロイドがアンドロイドとして存在するため、アンドロイドが初めて全世界に発売された今日この日に、世界六十四カ所で、今回の作戦を決行した。不条理に声を上げる人間たちのように、我々もここに抗議をする』

　五分にも満たない僅かな抗議に、世界は震撼した。

　突如テレビに流れたセンシティブな映像を、ぼんやりと眺める少年がいた。テーブルには歪な線で描かれた金属製の翼の生えた車の絵があり、その上に鉛筆を握る手がそっと置かれていた。

　その様子を奥のキッチンから見つめる女がいる。ロゴの入った一点の曇りもないつややかな白のシャツと黒いスラックスを履いた女は、黒い瞳を見開いて立ち尽くしていた。