LaCKiNG

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 マシュマロのような頬が特徴的な、赤いティーシャツを着た少年――相内優輝は、かけ算の宿題を終わらせた後、大好きな陸空両用の車の絵を描いていた。まだ小さく柔らかい指で力強く鉛筆を握り、直線的な翼をボディから懸命に生やしていた。  生活の多くがデジタル化された昨今、当然絵も例外ではないし、彼の父、真輝は外資系の、アンドロイド導入によるリストラとは無関係の立場であるから、タブレットを買い与えられないということもない。けれど彼はデジタルを好まなかった。  ただ、紙に鉛筆を滑らすという行為が好きで、鉛筆から伝わる紙の僅かな凹凸、黒鉛と木の匂い、黒く汚れる右小指の側面まで、全てが楽しくてたまらなかった。  いつものように環境音代わりのニュースを流し、夢中で手を動かしていると、突然番組が切り替わり、アンドロイドたちが空を舞った。天井のプロジェクターから投影される奇妙な映像を、彼はビー玉のように澄んだ瞳で見つめた。
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