LaCKiNG

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 演説の後、黒い画面は切り替わり、今度は急遽内容を変更したニュースが始まる。紺色のスーツを着た男性アナウンサーがスタッフから手渡された原稿を読む。当然、先ほどの事件に関する報道だった。強ばった表情で丁寧に概要を繰り返す。ひとしきり読み上げた後にアナウンサーは大きく息を吸ってから言葉を続けた。 『彼らの主張が真実であるならば、アンドロイドは感情を学習し得る、ということになるのでしょうか。我々にとってアンドロイドとは一体どのようなものであるか、今一度考えるときが来たのかもしれません』 「優輝、テレビは消しましょう? その絵を私に見せてくれる?」  言葉をかぶせるように、キッチンの方から女が駆け寄る。シャツに溶けこむ白い肌と、黒曜石をはめ込んだようなぬらりと光る黒い瞳のコントラストは、目が覚めるように鮮やかだった。ニュースがぷつりと切れる。彼女が遠隔操作で電源を落としたのだ。  彼女はありふれた家事特化型のアンドロイドで、マミと呼ばれている。急死した優輝の母、舞の代わりとして真輝が購入した。  愛する人を喪い、心を手放した真輝が付けたマミという名前は今の彼にとって、呼ぶたびに彼女のことを思い起こさせる残酷なもので、がむしゃらに仕事に打ち込む理由になっていた。  しかし真輝の荒んだ心などマミにとっては問題ではない。彼女はプログラムどおり家事だけでなく、優輝の宿題や遊びにも正しく対応し、母らしい振る舞いをした。完璧な仕事ぶりが、かえって優輝から父という存在を遠ざけていることに、彼女は気づくことはなかった。
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