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花と紙飛行機
花は愛に応えてくれる。花は、優しく愛でれば愛でるほど、美しくなる。ちゃんとしっかりとお世話すれば、花はやがて美しい花を咲かすのだ。
そうオレは、信じてる。
❀ ❀ ❀
園芸委員会の委員長に、オレは、今日も今日とて絶賛恋をしていた。
いつも昼休みに、教室から中庭を覗くと必ず、花の前には彼がいる。優しく愛しむような目つきで、彼は優しく花に水を注ぐのである。
「はぁぁぁあ〜〜。好きだわ〜〜〜」
「は、急にどした? あ。花野、お前また園芸委員長見てんのか」
「そだよ、悪いか?」
「いえ、全然」
友より今は彼だけを見ていたいので、友には一瞥もくれずにただ彼に視線を向ける。
花に微笑みかけている彼は、誰よりも美しく可愛い。まるで彼自身が花のように、洗練されているのだ。オレの手では触れてはならない、正に、高嶺の花。
「花野さ、そんなに委員長のことが好きなら告白すればいいじゃん。もっと間近で見放題だよ〜」
「いやいや、むりむりむりむり。何言ってんの? オレと委員長ってあんまり接点ないし、絶対オレのことなんて知らないよ。間近で見放題はしたいけど、引かれたらやだし」
オレの言葉を受けて友は「はぁ……」と、呆れから出てくるため息なのか、返事なのかわからぬ曖昧な反応を示す。可能性的には、前者の方が高いだろう。聞いといて失礼な奴。
そもそも、オレは彼に告白をするつもりは毛頭ない。だって、余計なちょっかいをかけて、オレが高嶺の花を枯らしてしまうなど、到底許されないことだから。
「にしてもさ、相手が知らないのに、なんで花野は委員長のことが好きになったんだよ?」
「あ〜……、オレって運動好きじゃん?」
「うん。そだな」
「……一年の頃、放課後にリレー練習してたんだけど、その時にさ、グラウンドで水やりしてた委員長と少し話したんだよ。それで惚れた。お前には分からんだろうけど、委員長って花のこととか話す時、すっごく可愛いんよ」
「ふ〜ん、そうなんだな」
「お前には分かんないだろうけど」
委員長は可愛い。小柄で目立たないが、凛とした愛らしさを彼は備えている。まるで、たんぽぽのような愛らしさ。
「面と向かって告白できないなら、ここの教室からさ、紙飛行機飛ばしたらどうよ? 中に告白文を書いて」
「え、ここ何階かわかってる? 四階だよ? 上手く行くわけないよ」
「それがいいんじゃん。委員長の元まで、上手く届いたら、それこそ運命! ワンチャンありあり!」
確かに、それこそ運命だ。一か八か、伸るか反るか。ここは、ヘタレだけど心を決めてやってみよう。どうせ、あともうすぐでオレも委員長も卒業だ。届かなかったら、潔く彼のことをもう諦めよう。届いたら、面と向かって彼に好きだと伝えよう。
紙飛行機───届かなくても届いても、それが運命だと腹を括った。
❀ ❀ ❀
ふと、紙飛行機が上から落ちてきた。
どこから落ちてきたかを探ろうと、校舎を見上げると、四階で一人の男子が顔を赤くさせ、こちらを見ていた。確か、あの顔には見覚えがある。
花野くんだ。
なんだなんだと、紙を広げればそこに広がっていたのは────
『いいんちょーーーー!!!! 二年前話したあの時から、ずっとあなたのことが大好きでしたーーーーー!!!!!!!!!』
との熱烈なラブコール。しかも、殴り書き感が半端ない。何も思わず、ただ数分ほどじぃっとその文字を見ていた。だが、段々と理解が追いつき、混乱してきた。委員長って誰だ? オレのこと? 好きってどういう? 性的に?
訳もわからぬオレに追い打ちをかける様に、ドタドタと足音が駆け寄ってくる。そして、空を切り裂く様な大声で
「いいんちょーーーーーっっっっ!!!」
と花野くんの声が、響き渡った。花野くんは、林檎みたいに真っ赤っか。慌てふためきながら、彼は身振り手振りで話し出す。
「きゅ、きゅ、急にヘンな紙飛行機飛ばしちゃってごめんね! いや、あの、その、ヘンっていうか、あぁ、えっと、それさ!!!!!!!」
「ちゃんと本心だから!!!」と、花野くんは、真っ直ぐにオレを見つめてそう叫んだ。
「ずっとずっと、委員長のことが好きでした!」
❀ ❀ ❀
花は愛に応えてくれる。花は、優しく愛でれば愛でるほど、美しくなる。ちゃんとしっかりとお世話すれば、花はやがて美しい花を咲かす。
委員長がオレと初めて会った時、語ってくれたこと。今でも、まだ鮮明に覚えてる。
確かにそうだ、委員長。
高嶺の花だって、愛を注げば、それに応える様に笑ってくれる。それに応える様に、そばにいてくれる。
だから、オレは絶え間なく花に愛を伝え、捧げるよ。あげ過ぎたら枯れちゃうって、言うからあげ過ぎは注意して。
「いいんちょ、大好きだよ」
ちゃんとちゃんと、枯らさぬように大切にしてあげるね、委員長。いつか、綺麗な花を咲かせられるように。
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