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とりあえずパンツを手にしたまま部屋へ戻った。ベランダでしげしげとパンツ鑑賞しているところを誰かに見られでもしたらそれこそ人生の終わりである。
しかし、はたしてこれはどこから落ちてきたものか。
一番可能性が高いのは近所の洗濯物。どこぞの物干しからここまで風に飛ばされてきたと考えればもっとも合点がいく。しかし今は朝の五時。こんな時間から洗濯物を干すだろうか。いや、たとえ干したとしてもこのパンツのように乾いてはいないだろう。もっとも、昨日のうちから干していて取り込むのを忘れていたという可能性もあるが。
ただ、誰かの洗濯物でないとしたら、他の可能性が見当たらない。
誰かが投げ込んだ? 落ちていたのが風で舞い上がった? それとも――天からひらりと落ちてきた?
いくら考えても答えは出ない。そもそも答えを出す必要もない。誰かのパンツが家のベランダに落ちてきたんだ。つまりこれは落し物。なれば交番にでも届ければいい。
しかし大の男が女性物のパンツを『拾いました』と届け出て、果たして大丈夫なのだろうか。署で詳しくお話をと連れていかれないだろうか。『正直に言え下着泥棒だろ』『わざわざ警察に届ける泥棒がいるかよ馬鹿じゃねぇの』みたいにならないだろうか。
思考が行き先不明の舵取りをしていることに気づく。落ち着け、考えても仕方ない、とりあえず予定通り洗濯と朝飯としよう。パンツの処遇はそれからだ。
握っていたパンツを床へと放る。ふわりと揺れてぱさりと落ちたそのとき、それは起きた。
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