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光をたどって北へ向かった。
駅に向かい、電車に揺られながら、時折まわりの乗客にバレないようにパンツを握りしめて光の方向を確認する、そんな泣きたくなるような旅の結果、その日のうちに海へとたどり着いた。
思えば海を見るのは久々だった。もともと出不精であることに加えて自宅が内陸ど真ん中にあるからだ。
天気も良く、眼前に広がる海面は陽光を受けてキラキラと揺れ輝いている。
風も穏やかで、不規則な形の海波と、規則的な響きの波音が打ち寄せている。
うむ、実に綺麗だ。たまには海もいいものだ。ずっと眺めていても飽きない魅力がある。
そんなことを考えながら、パンツを握りしめる。
放たれた光は海の向こう、水平線の果てをまっすぐに指した。
「……あの、女神さん?」
『はい?』
女神の声だけが、手にしたパンツから聞こえてくる。
自宅を出てすぐ、試しに街中で呼んでみたところ、女神は最初と同じ格好で目の前に現れた。その美貌が、そのスタイルが、その現実離れした服装が衆目を集めたことは言うまでもない。
それ以降、女神には姿を現さぬよう、声だけで意思疎通するようお願いしておいた。意味なく目立つのは御免被りたかった。
「光が海の向こうを指しているのですが」
『運命の女性は海の向こうにいるということですね』
わかりきっていることを答えるでない、女神さんよ。
「それで、どうすれば?」
『海を渡ればいいでしょう? 船で渡るもよし、ひこうきなる空飛ぶ乗り物もあるのでしょう』
簡単に言ってくれるが、目的地が海外となるとやらねばならないことが一気に増える。
海外旅行など興味がないのでパスポートなし。船にも飛行機にも乗ったことがないので乗り方も調べねばならない。本当に行くとしてどれくらいの長旅になるかわからないので職場とも相談せねばならないし、自宅のこともあれこれ考えなければならない。
正直、とても面倒くさい。
「どうしても行かないといけませんか」
『行かなければ死にます。クジラの化物に丸呑みされて死にます』
言った瞬間、はるか沖で巨大な何かが高々と跳ねた。
見えたのはわずかな間だったが、どうにも大きなクジラのようだった。しかも、心なしか太い手足のようなものがついていたように見えた。
突然変異を起こしたクジラの新種かな、などと考えている場合ではない。
「行きますから。海を越えますから」
『よろしい。さぁ頑張ってまいりましょう』
半ばベソかき半ばヤケクソでパンツに向けて言うと、女神の元気な声が返ってきた。
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