“パリン”

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春の風が3年2組のクラスの中に入り込んできた。揺れるカーテンの傍の席で、鮎川芽衣(あゆかわめい)は板書をノートに丁寧に写している。胸までのびたきれいな髪の毛を後ろに縛っているが、こぼれた前髪が風に乗ってふわふわ少しだけ空気を含んで膨らんで揺れていた。黒板と自分のノートを行ったり来たりするその顔は真剣で綺麗であった。僕は彼女の席から右に二つ、後ろに一つのところに座っている。授業中何度も彼女の方をみてしまう。消しゴムを落として拾ったあとの瞬間、左隣の友達の顔を見るふりをした瞬間、窓の外を眺めているふりをして目の片隅に。彼女のことを考える時間が一日の大半を占めていたし、できればずっと見ていたい。夜の寝る前には必ず彼女のことを思い浮かべるし、今日見た彼女の一番かわいい姿を決める会議が始まってしまう。授業を真剣に聞いている横顔、友達の一花(いちか)と話しているときの笑顔、ブレザーのすそを少しだけ手に伸ばしてあくびを隠す顔、腕を上にあげて伸びをしているときのリラックスした顔、お弁当を食べるときの箸の持ち方、髪を後ろで縛っているときのうなじ、垂れている前髪を耳にかける瞬間。どれも可愛くて僕は自分の心のアルバムのハートマークをつけて保護をかけている(そんなものがあればのはなしだが)。 今日最大のクライマックスはクラスの掃除をするときに掃除用具を鮎川さんに手渡した瞬間だった。 「はい。」 「あ、ありがとう。」 なんだよ、そのちっちゃい「あ」。一文字僕宛の言葉が増えたので最強にテンションが上がってしまった。しばらくフルフルと心中で喜びをかみしめていたら、一花がこっちを睨んで待っていた。 「あいよ」 「早く渡せよ、待ってんだから。」 「なんだよ、渡してやってんだから、そんなふうに言うなよ。」 「別に頼んでないわ。」 そう言ってすぐに鮎川さんの傍へ駆け寄る。一言が余計なんだよ、一花は。可愛くて人気あるんだけどな、あいつ。まあいいや、それは置いておいて、さっきの鮎川さんの六文字を頭の中でリフレインした。こっちを見るときはまっすぐよりちょっとだけ下を向く鮎川さんは、僕より十数センチ背が低いぐらいだから、並んで歩けばちょうどいいんだよと思っている。並んで歩けばちょうど良いって最高に響きがいい。そうやって帰りに誘ってみたいなといつも思うが、そんなこと言えるわけでもなく、もんもんとしているのだった。いつか校門で待ち合せたりするのが出来たらいいのに、と妄想を膨らませる。 「おはよう。鮎川さん。」 「あ、おはよう、祐君。」 毎日、無駄に鮎川さんの方の机の間をぬって自分の席に座るようにしている。自然と朝に一回声を聴けるのだ。僕は席について、教科書を鞄から机に入れる。座るときに少しだけ鮎川さんを見て、机につっぷしたふりをして、腕の間から鮎川さんを覗いて授業が始まるまでを幸せに待っていた。 3限目体育の時間が始まった。僕としては体操服を考えた人に感謝をしたい。どうして体操服をこの世に用意したのかを詳しく聞きたいし、何時間でも僕の話をしたい。どれくらい感謝をしているのか、どれくらい鮎川さんの体操服すがたがすばらしいかを。少しだけ膨らんだ鮎川さんの胸は普段制服で隠れていた時よりも、確実に、しかし控えめに主張をしている。その悠久のふくらみはきっとこの世のどんな数学者でさえ線形にして数式にしても美しさを表現できないと悩むに違いない。そのうえ、少しフィットしているおかげで、走れば若干の揺れを感じる。どうした、どうしてこんなものを用意した?中学生の男を憤死させる目的なのだろうか?唯一体育の授業、なんどか前かがみになってしまうことだけが悩みぐらいだが、こんなことは些細な問題である。 今日は男子、女子ともにバスケである。女子がバスケをしているときはこれ以上ないぐらい鮎川さんを目で追った。本日の夜のためにしっかり目に焼き付けておかなければならない。うまくいくと夢も出てきてくれるのだから。 「ほーい、女子休憩。次男子ー」 先生が男女入れ替えの合図をした。 僕は運動神経は悪い方であるが、バスケは好きなので、夢中になっていた。ゴール下で構えて、もらって、足を入れ替えて点を決める。パスはバスケ部に投げて任せれば大体運んでくれるので、ゆっくりゴール下でリバウンドの準備をしに行けばいいだけだ。サッカー部の丸井が無理にスリーを狙たせいで、リングのバウンドが思ったより外に飛んだ。僕はジャンプ一線、少しだけ指に触れて、着地と同時に、ボールが飛んだ方に取りに行こうと手を伸ばした。ボールを片手に捉えて、コートの中にいれたけど、そのまま倒れこんでしまった。そっちにまさか、鮎川さんが居ると思っていなかった。 「きゃあ」 「うわ、ゴメン!!!」 と言ったけど遅くて二人ごちゃごちゃと倒れこんでしまった。鮎川さんに僕が乗るわけにはいかず、必死に腕で彼女に体重がかからないようにしたら、間違えて彼女の胸に手を置いてしまっていた。 “パリン” 「きゃっ」 「ん?」 え?あれ?ん?やわらかいんだけど?ん?違くな? 「ちょっと祐、いつまで芽衣の上に乗ってんの!」 「あ、ちょっと待って、え?おかしくない?あれ?鮎川さんもっかいさわっていい?」 「え?」 「あ、いやいや、そいうのじゃなくて、うん。ちょっと確認のためというか。」 “パリン” 「きゃああ」 「うわ、やっぱり」 びっくりしていた鮎川さんの顔は、みるみる恐怖に変わっていった。あれ、失敗した?いやでも、ほら、なんか違ったから、 「え、ば、バッカ。芽衣から離れなよ!」 怒った一花がこっちに寄ってきた。僕をどかそうと一花が腕をつかんできたので、丁度良いので、一花の胸もさわってみた。 “パリン” 「きゃ、、」 「ほら!!」 パチン!と一花のびんたが飛んできた。いやでも待て。絶対おかしいじゃん。そんな馬鹿な。普通はやわらかいから「ぽわん」とか「ふにゅ」だろ?これ絶対おかしいよ。 「な?一花、ちょ、ちょっ、もっかいだけいい?」 バチン!!二度目のびんたを受けて、僕はその場に倒れこんだ。そのまま先生が僕を別室に連れていき、説教と校庭のトンボ掛けを命じられた。思春期によくある衝動とか、昔は先生はおしりでがまんしたとか、先生のころはブルマだったぞとか、今度一緒にあそぼうなとか、なぜか先生は僕の味方感を出してきた。いや、違う。お前のそれとは圧倒的に違うはずなのに、、、、。 校庭のトンボ掛けを終わり、教室に戻ると黒板にでかでかと「変態!」と書かれていた。いやあ、濡れ衣だよ。うん。いや、まあ、でもそうか。そう思いながら、黒板を綺麗にして教室をでた。 なんか、悪いことしちゃたな。 とぼとぼと自分が綺麗にした校庭を抜けて家路に一人で向かった。 家に帰り、びんたのあとを見た姉ちゃんがめっちゃ笑ってきた。漫画見たいに綺麗にびんたになっているらしい。お風呂をでて、ソファーに座っていたら、ふろ上がりのパジャマ姿の姉ちゃんが隣に座ったので、姉ちゃんの胸を触ってみた “パリン” ごっ! ブラックアウトしながら、「ほらやっぱり」って言って伸びた。姉ちゃんのぐーぱんはめっちゃ効くなあと鼻血を垂らしながらおもった。 「おっかしいなぁ…」
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