落花生の殻

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夜中に目が覚めた。視界に入ったのは枕と敷き布団の切れ端だった。僕が寝ている布団の。目の前にあるのは現実の風景なのに、どうしてか自分にはなんのものか理解できないでいた。動けないような気もした。有り体に言えば金縛りだったのかもしれない。ところが一番思ったのは自分は自分の形をした空っぽのような気がした。 父親をしている。会社で部のリーダーをしている。旦那をしている。先輩をしている。相談を良く受ける。そうして、何かを書いている。それらが全て嘘のような、いや現実の世界に繋がっているのに、全部嘘のような気がした。繋がっているところはあるのに、中身は空っぽなのだ。 ぷっくり二つに割れ始めていた。自分の体の真ん中に線が入っている。スルスルと下に割れ目が増えていく。もう僕の体は半分に割れてしまっていた。そうすると本当に中身がない。笑ってしまうぐらい、空洞であった。なのに、しっかりと中の方は赤くて、血潮がしっかりと動いている。見た目的にも気持ちの悪いものだが、隠したくても隠せない。なにせ、こちらは中身が空っぽで動けないのだから。 そうこうしていると、朝を迎えた。まず最初に子供が起きて、悲鳴をあげた。次に、妻が駆け寄り、緊急の電話をした。僕はとにかく、目が乾いて仕方がないことと、話すことができないことがしっかりと分かった。 救急車がきて、そのあと警察がきた。警察と救急隊員が揉めていた。どちらの領分かということであるし、妻は妻でそんなことでやりとしないで、早く連れて行って欲しいと懇願していた。それはそうだ。こんな気持ちの悪いものは早く外に出すべきだ。そう思いながら、これでは生ゴミ回収の方がよかったのではと誰かに言われないかすごく心配になった。 思い出したのだが、今日は大事な会議があったはずだ。会社に連絡をするのを誰もしていない。気づけば自分のバックでブーブーと携帯が鳴っている。妻が電話に気づいて、会社の上司に平謝りをしていた。基本的には緊急になり、命に関わる状況だとその場を説明していた。我が妻がなら非常に冷静な連絡だと思った。半分に割れていて、死んでいるのか、生きているのか分からないなどと見たまま説明すれば、誰だって混乱をするだろうからな。 結局、警察が折れて、救急隊員が僕を運ぶことにした。そうしたあと、死んではいないが、一応現場検証と、妻への取り調べをさせて欲しいと依頼があり、僕はその場で現場検証を待つことになった。その間救急隊員と警察は話をして、あとで取りに来ることになった。子供達は僕の体で遊び始めたが、警察のおじさん二人がすごい怒ったので、泣いて辞めた。 警察は妻に、念の為殺害や傷害にならないか確認をしていた。寝ている間に起こった事、寝室がすでに別なので正直分からないという事。動機があるかないかでいうと、どちらかと言えばあるになると思うととても素直に話していた。警察官は多かれ少なかれそういうものですよと話を返していた。 現場検証をする警察の方はとてもテンションが上がってしまった。これを発表したいと喜んでいたが、それはすでにこの後の病院の権利になったと現場の警察官が答えた。そうすると、現場検証の警察官のテンションはだだ下がりになった。それからの現場検証は非常におざなりで、一瞬で終わった。とりあえず妻の容疑は晴れて、さらにいうと僕の状態は死亡ではないとされた。 救急車に乗ったが、妻は夕飯を作らないといけないらしく、僕一人で病院に行くことになった。先生たちは非常に興味津々で、すでに臓器が一つもないので、どのように見ても死んでいると診断をしても問題ないことにしようということになった。外科医が非常に喜んでいて、この状態で数年保管されることとなった。 展示物 落花生の殻 −ヒト− ヒトではなく落花生の殻に近い存在。この世にこの一体しかなく、腐敗が進行していないため、このまま展示している。医学的な見地からは生命としては認識できず、今後の研究に役立てたい。事例がないため、一旦このまま保管とする。
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