約束現象

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「ねえ、あの日の約束、覚えてる?」  木陰で、カフェテリアで、体育館裏で、もしくは海岸沿いで、またまた空港の待合室で――髪型はショート、ミディアム、ロング関係なく、年齢、人種、体格を問わず、とにかく女性に、そんな言葉をなげかけられて、ときめかない男がいるだろうか? 「私、ずっと待ってたんだ」 「あのときの約束、ずっと覚えていて」 「こうしてまた会えてうれしい」 「約束を果たしにきてくれたんだね」  そんな言葉を並べられて、青い顔をする男なんて、もはや男とも言えないだろう――いいや、このさい、大事な約束を反故にするどころか、忘却してしまっている時点で、もはや人間ですらないと断固言い張っても間違いではないし過言ではない。  そんな人間は、人間失格の人でなしである。  最低だ。  けれど。 「あのう、どちら様でしょう……?」  話しかけてきた女性が見知らぬ他人だった場合、どうすればいい? 「井上くんの馬鹿!」  平手が飛ぶ。
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