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「大丈夫?」と彼女は僕に言った
「心配いらないさ」と僕は窓枠に掴まりながら言った
「そうじゃないわ、つまり、あなたは大丈夫なの?って聴いてるのよ」彼女は僕の方へとそろりそろり近づきながら聴いた
「ねぇ、夜空が近いよ、ほら。」僕はもう少しだけ外に身体を出しながら、軽く声にした。
仕事に追われて毎晩遅くなる。あまりに疲れた毎日に、ふと夜の空を見上げた。
あるはずの月夜や星々は無く、どんよりとした雲が広がっていた。真っ黒を少しだけ濁した灰色の混ざった夜だった。望遠鏡に噛り付いていた頃、火星が大きく見えていた。夜中の2時に目が覚めた。夢が僕に見せたのは、僕の戻れないぼくだった。
「そら、手を伸ばせば届くんだよ。」右手をできる限り空に向けてみた。ぽとりと水滴が手に着いた感触がした。
「もういいわ、寒いし、それにこの高さじゃどうせ望む結果にならないわよ。」彼女は眠たかった目をもう一度落とすためにベッドの中に戻ってしまった。
「届くんだよ」
お布団を頭まで、かけて。
「僕は届くんだよ。」
翌朝、男は布団から動けなくなった。
女は髪を整えて、仕事へ出かけた。
折りたたみ傘が必要だと言い、
バンを二枚焼いて行った。
乾燥機の音がする朝だった。
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