夏の日

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背の高い、向日葵たちが上を向いていた。 汗が滴り落ちた。自転車のペダルを漕ぐと、グニっとスニーカーが歪む。 前を向いたら、向日葵が両側に咲いていた。 青くて、暑くて、どうしようもない夏の日だった。 🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻 「好きな人居るん?」 のりちゃんに聴いてみた。 のりちゃんは、中学二年生の同級生で別のクラスになっちゃったけど、小学校の時から一緒だったから、たまにお昼ご飯とかを学食で一緒になって食べたりしたり、暇があれば側にふわっと居るようにして、あぁ、忘れてないよって思わせたくて、いや、忘れられたく無くて、つまり僕のお気に入りというか、いや、まあ、初恋の人だし、お気に入りっていうと違うんだけど、だから、好きなんだよってずっと喉から出そうなのをいつも舌で押し込んでるような、そんな、感じの、まあ、僕の好きな人ってこと。ちょっと恥ずかしいな。 「なんよー、居ったとしても、言わんから。」 めっちゃおっきな口を開けてのりちゃんは笑った。八重歯が見えて、目が綺麗で、最近まつ毛をあげたりして、更に可愛さが増してて、肌は小麦色だけど、それも似合ってるよと、言いたい。言わないけど。 「そーなんやー、俺ちゃうの?」 「まぁーた、言うてる。あんたちゃうわー。」 中二の春の終わりに本気で告白してみた。呆気なく振られたりした。んでもって、のりちゃんは友達は続けたいって言って、愕然としてたけど、「うん」とか凄い首を縦に振ってしまい、結局まだ友達を続けてて、それって、横に居ても、遠くに居ても、何をしてても、永遠に近づけないモノだから、リニアモーターカーみたいに、ちょっと宙に浮いてるんと一緒なわけで、でもって、めっちゃ滑るけど、一向にくっつかないってことで、つまり、俺はその後かなり後悔した。そのせいか、告白する前より好きになっている。あほだ。 ほんで、たまにこうして、のりちゃんの側にいる。ほんで話す。ほんで、めっちゃ可愛いなぁって思って、家に帰る。ほんで、布団の中で、ちょっと悶える。ほんで、あかんなぁって思いながら一ヶ月のうちの何回かはオナニーをしてしまう。はぁ。あほだ。あほだ。あほだ。 夏休みの前の夕刻。放課後の体育館の側で、のりちゃんを見つけた。のりちゃんは、泣いていた。 話を聴くと武則に振られたらしい。 は?アホかアイツは。のりちゃんの良さを一切合切分かってないんか?どあほ!てか、本気でキレてきた。アイツのりちゃんの何がわかるんや!めっちゃ素直で良い子やん。おっぱいはちっこいけど、まだ伸びしろあるし!笑った顔めっちゃ可愛いし!のりちゃんは太ももやし!その脚の美しさとか分かってないし!体育のハーフパンツの時こそ最大に艶かしいし!あと、たまに優しいけど、そのたまにがええんやし。てか、頭も回転早くて凄い返しもうまいし。それに、結構前に前に進めれる行動力があるし!そのくせ、ヘタレやすいから側におらなあかんし!でもそこが可愛いんやし!あいつ、まじ顔と身長のみで、頭くるくるぱーやな!って、泣いてるのりちゃんの側でいきりたってたら、凄い勢いで平手打ち喰らった。 ほんで、めっちゃ怒った顔して出てった。 「なんで、そんなに怒んねんやー。」 🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻 ほんで、今や。 おれは、北海道で、チャリンコ漕いでる。 夏の日。 帯広の地で、アホほど辛い自転車の旅。 「まじ…つれぇ。」 その場で倒れ込んだ。 ピロリンと、LINEが入る。 《どう?北海道横断?笑笑》 のりちゃんからのLINEだ。帯広から札幌まで、自転車の旅をする事に。 のりちゃんのお父さんの実家は札幌。 ほんで、おれの母ちゃんの実家は帯広。 🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻 叩かれた翌日。 「あんな!のりちゃん!」 夏休みに入る前に絶対、怒ってたんを許してもらいたかった。 「ごめん、なんか言い過ぎたんやな?俺こそ、アホやし、なんか悪かったって思って。ほんで、ごめんなさい!言い過ぎた。」 教室の前で待ち伏せして、角度100度で頭を下げた。 のりちゃんはやっば、優しくて、頭ぽんぽん叩いてその場を去った。それから、LINEで、《許してやる》って入ってきた。 《なんでもやるし、なんでも言って!》って送り返したら、 《ほんなら、夏休み、うちのお父さんの実家に遊びにおいでよ。》だって。《え?良いの?》 《うん、自転車で!》って。 鬼かよ。まじ、鬼かよ! 🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻 汗を拭いて、水筒を開けた。もう、僅かの水になっていた。それから、また、ペダルに力を込め直した。向日葵が風で揺れた。遠くの山が、夏日に揺れた。 《札幌着いたら…お疲れのキスしたげる》 のりちゃんめ! 絶対行ってやら!チクショー!
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