暖かい音

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ゆき 結露で窓が曇っていた。 「ねえ、熱くてたまらないわ」 とさえが言う。 「なんだ、さえ、今は冬だぞ。さぶいんだよ」 と俺が言う。 「………っ」 「痛っ。なんで腹を叩くんだ、バカ」 「だから、離れろと言ってるんだよ」 「その権利は、さえ、お前には無い」 俺はさえに覆い被さって、くっついていた。 頬が触れるほどに。 「はぁ、窓でも開けるか」 とさえがそのまま窓を開ける。 「お」 「あ」 「初雪だ」 嫉妬 「ねえ。才能に恋することってあるの?」 小百合は肌を重ねた後に僕の胸に手を置きながら聴いてきた。 「いや? なんで?」 「別に」 そんなことを言われてふと思った。 僕は才能に恋をするってあるのだろうか…? 「私は、あるわ」 上を向き直して小百合はそう言う。 どこかへ行ってしまいそうだから、 僕はもう片方の手で小百合を包む。 「でも、それってあなたじゃない」 スルッとそのまま僕の手から抜け出てしまった。 彼女の抜け落ちたベッドには 歪んだシーツがあった。 手袋 「手袋というのはね、君。  寒さ防ぐためにあるんだよ」 「はぁ」 先生が少し説教めいて、私に言う。 別に構わないじゃないの 「だからさ、  もう。まあいい。  私の手袋を使いなさい」 諦めたように先生は言った。 「あぁ、ありがとうございます」 「まったくもう」 手袋を脱いだ裸の先生の手はポケットへと消えた。 「先生、手でも繋ぎます?」 聞こえないふりをして、先生は私を置いてスタスタ歩いて行ってしまった。 「あ、ちょっと待ってください」 黒くて大きな革の手袋。 それは私を温める。 私たちの後ろには雪だるま。 それと私の赤い手袋が 二人に向かって大きく手を振っていた。 KOI 彼女が一つ、もう一つ、何かをするたびに、横目の端で捉えている僕がいる。 驚くことがあれば、はしゃぎ。 友達が近くに来ると、それだけで嬉しそうにして。 美味しいものが目の前に出てくると、子供みたいに声をあげていた。 そのどれにも、笑顔が溢れていた。 そのどれをも、真っ直ぐなところから見たい。 そのどれをも、毎日、見ていたい。 「で、すみません。これってどういう意味ですか?」 「それね、こうだよ」 「あ、はい。ありがとうございます」 時たま、彼女が僕に質問をしてくれるが、僕がどんなに想おうが、会話の糸口が切れてしまう。 もともと無かったような会話。 僕には、彼女と楽しく居られる日々など来ないのだと思う。 彼女が好きだ。 そして、嫌いだ。
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