幸せを捕まえる

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幸せを捕まえる

網を持った男が家の前にいた。 朝のニュースでは熱中症に気をつけるように言っていた気がする。 私は携帯しているレモン水を飲み、その男が何をしているのかをじっくりと見つめていた。 男は、精一杯背を伸ばしたり、素早く動いたりしながら、空中に網をかけていた。蝶々でも探しているのだろうか。 私は不審な気持ちになり、男に訪ねてみた。 「何をされているのですか?」 「幸せを捕まえているんだ。すぐに逃げるからな」 「それは、大変ですね。ところで、ここは私の家の前ですが」 そうすると、こちらを見向きもしないで、男は言った。 「あんたか。しっかり管理しろ。こんなに逃げているんだから。迷惑だよ」 そう言われたので、申し訳なく思った。 「それは、大変、ご迷惑をおかけしました」 そう言って、よろしく頼み、私は仕事に出かけることにした。 カバンの中に、昨日からナイフを入れているんだが、今日はやめておこうと思った。
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