0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
幸せを捕まえる
網を持った男が家の前にいた。
朝のニュースでは熱中症に気をつけるように言っていた気がする。
私は携帯しているレモン水を飲み、その男が何をしているのかをじっくりと見つめていた。
男は、精一杯背を伸ばしたり、素早く動いたりしながら、空中に網をかけていた。蝶々でも探しているのだろうか。
私は不審な気持ちになり、男に訪ねてみた。
「何をされているのですか?」
「幸せを捕まえているんだ。すぐに逃げるからな」
「それは、大変ですね。ところで、ここは私の家の前ですが」
そうすると、こちらを見向きもしないで、男は言った。
「あんたか。しっかり管理しろ。こんなに逃げているんだから。迷惑だよ」
そう言われたので、申し訳なく思った。
「それは、大変、ご迷惑をおかけしました」
そう言って、よろしく頼み、私は仕事に出かけることにした。
カバンの中に、昨日からナイフを入れているんだが、今日はやめておこうと思った。
最初のコメントを投稿しよう!