五.日本人

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五.日本人

人類の歴史には暗いこともよく起こる。 一時は、世界人口が100億人を超えた事もあった。 しかし、ある時地球のキャパシティの限界と、人類の生物としてのストレスが限界に達した。 いくつかの悲劇が連続して起こり、遂に人口は25億人にまで落ち込んでしまった。 それでも人類は強かなもので、歴史が繰り返して来たように、いつの間にか、また元気を取り戻しつつあった。 そんな日本での話である。 「あなた! これ、お弁当」 「ああ、すまん。有難う」 オットが弁当を忘れていたことに気づいたツマは、慌てて追いかけて差し出した。 せっかちなオットはいつも忘れ物をする。 「まったく、気をつけてね」 無事に弁当を渡し、ツマはオットを送り出した。 世界で起こった悲劇は、もちろん日本の国土をも巻き込んだ。度重なる戦争や内戦、自然災害に見舞われて国土の半分以上が焦土と化し、海の底に沈んでしまった。日本の地形も変わってしまい、人口も随分と減り、生き残った国民が北海道に移り住んだ為、今では首都も北海道に移っていた。 オットが電車を待っていた。 「間も無く電車がまいります。危ないですから、白線までお下がりください」 ガタゴトと音を立て、電車が一両編成でやってくる。 プアーーーーーッ! 大きな警笛が鳴り響いた。 オットは息を吐き出した。 目の前の扉が開いたが、すし詰めの状態である。 オットはお尻を向けて電車に乗り込み、扉の上に手をかけて無理やり身体を押し込んだ。駅員は、オットを含め扉からはみ出ている乗客を押し込んだ。 なんとか扉が閉まり、電車は走り始めたのだった。 「ふぅ。なんとか乗れたなぁ」 オットは安心した。 電車が無事に行ったことを確認し、駅員はぼそりと呟く。 「しかし、日本人は変わらないなぁ。仕事なんか殆どすること無いのに、定時出社するんだなぁ」
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