六.ガイドブック

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六.ガイドブック

ある惑星の宇宙人たちが、地球の近くを通りかかった際、地球に興味を持ち、降りてみることにした。 「こ、これは。なんて素晴らしい星だ」 何千年もの間、惑星を探査して来た先輩の宇宙人は、地球に降り立って驚嘆した。 「本当ですね。とても美しいですね」 後からやって来たもう一人の後輩宇宙人も共感した。 「数百年前に、人類という生き物がこの惑星を支配していたそうです」 手に持っていた端末を使い、後輩宇宙人が先輩宇宙人に説明した。 「そこかしこに電子的な粒子が飛んでいる。それが、この景色を損ねているね。場合によっては、全部掃除することも考えておこう」 先輩宇宙人も端末を見たり、特殊なメガネをつけたりしてそう言った。 小さな乗り物を使って周辺を探索したが、どこもかしこも同じような景色であった。 「まるで惑星全体が高級な美術品ですね」 「本当だね。ここまで統一感があると、とても美しい。素晴らしいね」 先輩宇宙人は、熱心に辺りを記録していった。 「星全体の文明が、こんなにも綺麗に廃れている惑星は見たことがないね」 「はい、あらゆる建造物が崩壊していますね」 「ああ、こうして見ると、人類というのはとても美術センスがあったんだろうな。惑星全域で統一的に荒廃させるなんて……文明を持った生き物にはなかなかできないことだからな」 地球のあらゆる地域は、皆等しく成長し、等しく荒廃して、それらは廃墟となっていた。その光景のあまりの見事さに、宇宙人たちはとても感動していた。 「しかし、なぜ、この電子的な粒子で、水や植物をわざわざ空中に見せるような仕組みがあるんでしょうね」 「さあね。ここまで美しいと、そういう風にして汚したくなるんじゃないのかね」 二人は宇宙船に戻った。 宇宙船に備わっている、電子粒子排除装置のスイッチを押して不要なものを全て除去すると、地球の外観を記録するために宇宙に出た。 「これはいいね。この惑星全体が、灰色に見えたのは、あの美しい光景のせいか」 宇宙人たちは、地球を『廃墟星』と名づけて、旅行のガイドブックに載せることにした。 「いい観光星を見つけられたな。きっと大流行するだろうな」
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