八.ピンポンダッシュ

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八.ピンポンダッシュ

「昔の話ですが、ピンポンダッシュというのがありまして」 「はあ」 「他人様のご自宅のベルを鳴らしてですね」 「はい」 「逃げるんですよ」 「それは……。ちょっとどうなんでしょうね?」 「はい。まあ、今となっては推奨できるような話ではないんですけどね。子供のいたずらとしては面白く、スリルを味わっていたのだと思うのです」 「まあ、そういうこともあるでしょうね」 「そして、急に思ったわけですが」 「はいはい」 「今どきなら、この『ピンポンダッシュ』はどうするのでしょうね? と」 「ほー。確かに今は、『家のベル』を探すこと自体が難しくなりましたね」 「そうです。その頃というのはですね、家人という個人情報がむき出しになっていたわけです。そして、『家のベル』を鳴らして中の人を呼び出していたのです。今はそんな危険なことはセキュリティ上ありえませんね」 「はい。今や『家のベル』は家の門に設置していませんし、IoTとなったスマートハウスである家自体が『家のベル』の代替として通知をだしてくれますしね。となると、どうやって『ピンポン』をするんでしょうね?」 「まずは本質から考えましょう。大事なことは、『ピンポンとは突然されるものである』こと、さらに『ピンポンをした相手を知らない』ことですね」 「はい」 「それから、『ピンポン』という通知が有ったのに、そこに『相手は不在』という事象が成立してないといけません」 「そうですね。だいぶ整理ができてきました。突然の通知、通知人不明、解錠後の不在、といった具合ですね」 「はい。ではまず、ハイスペックなパソコンを用意し、ネット環境に繋げる前に複数のサーバーと契約をします。その際に、ちゃんと偽名で契約をしなければなりません。これにはそこら辺にある戸籍情報を借りましょう」 「はいはい」 「それから、絶対にこちらの情報がわからないように、いくつもの回線とサーバーを経由して、ランダムに選んだ複数の家のスマートハウスのセキュリティに入り込みます」 「ウンウン。間違えてないね」 「その際のセキュリティはT社がいいですね。実に簡単に入り込めますから。あとは、通知である訪問音を鳴らし、玄関を解錠できるプログラムが走るようにすれば準備が整います」 「やることは大掛かりだけど、準備自体は簡単にできましたね」 「最後は実行を『押す』だけですね」 「完璧ですね」 ー実行ー 「あはははは。3万戸同時に『ピンポン』を鳴らせたよ」 「面白い、面白い!! 解錠も勝手にされているので、さぞ驚いてるでしょうね!」 そうして、二人はひとしきり笑った後で気づいた。 「でもこれ、ダッシュは?」 言い終わるや否や、 『ピンポーン』 と訪問音が鳴った。 モニターを見ると、表には警察が立っている。 二人は靴を持ってベランダから出て、猛ダッシュをした。
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