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ところで久々知彦は名に反してたいそう美しき女武者である。
彼女は夜空を編んだような絹の如き射干玉の髪を持ち、月桂の如き鼻梁を備えていた。白珠の肌に黒と朱の黥を纏い、戦場に於いては魁として箭面に立った。
北の女王が横死した頃。野分が島を踏み荒らした。
雲から絞り出された雨が大地を打ち、泥が驚き飛び跳ね、草花は為す術もなく押し流す。
暗天蔽う中で水嵩は増し、遂に濁流は葦を薙ぎ倒し押し寄せた。天から青白い稲妻が落ち、雷鳴の如く地響きが鳴り渡る。轟音と白光りの中で山影が動いたかと思うと、突如、阿蘇山に蟒蛇が現れ、にゅるり、にゅるりと溝を這い登っていった。
後日、久々知彦は野分の後始末のため、阿蘇へ訪れていた。
筑紫島の臍にして、此処を肥の国足らしめる阿蘇山は女人の乳の如く豊かな水脈を持つ母の地。其処を統べる五十鈴姫は、憂い顔で久々知彦に語った。あの野分の日から、『御池参り』に向かった少女たちが帰ってこないと。
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