酸素修行

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不正事件検査委員会が家にやってきた。 「バレたのか」 妻役の沙織が私を鋭い目で見る。 「いや、沙織。キャラとしては私はダメな夫だったが、この状況下であれば私は上司だよれ」 「なんだよ。だよれ?って」 家の外のチャイムがなる 「キャラだよ」 「今つけろよ、今も」 「だからだな、私は君の上司だよれ」 はぁ、と大きな溜息をつく、沙織。 チャイム数秒間隔で鳴る 我々は夫婦活動をしている秘密結社「反比例コーポレート」である あらゆる家庭の夫婦を演じるのが仕事である。 例えば暫く夫婦を休憩したい。 や、 あの人飽きたから暫く代わって欲しい とか、 お父さんとお母さんを暫く代わって欲しい とか、とか、 意外と需要がある会社である。 まあそんな訳でこの仕事も板についてきたわけだが 我々のせいではないが その後の「ホンモノ」達がたまに事件に巻き込まれたり、事件を起こしたりする 羽目を外すのだろう 我々からしたらいい迷惑である そしたら奴らが目をつけてきたって訳だ  「不正事件検査委員会」 あ、警察みたいなのを想像しました? 違うんですよ そういう奴らじゃないです 事件の中でも、不正なもののサンプルを取りたい奴らなんです 普通の事件は 怨恨や金や復讐などしっかりとした動機があります。所謂「正しい」事件です 我々によって羽目を外す人たちの事件は 「不正」な訳ですよ まあ、彼らからしたらですが ピンポーンピンポーン 「おい、どうすんだよ、4号」 「沙織ちゃん、その呼び方はやめてよ」 「サンプルとして、ホンモノの居場所をはかされるぞ、4号」 「うーん、簡単には個人情報を渡せないけども」 「あいつら、長方形の口入れ歯を無理やり入れて、吐かせるって聞いたぞ」 「んなわけないよ、沙織ちゃん」 外に立っている委員会の奴らを覗き見たら 真っ黒いマスクを目につけていた パンツを片手に巻いてて 腹巻をしてる 足がむき出しでズボンの裾を膝上から破いている 革ジャンを着ていて 体が梅宮辰夫さんみたいに黒い 「沙織ちゃん、ゲロろう」 「おい、4号、仕事にプライドは無いのか?」 「なんか、見た目がヤバいよ」 チャイムの音がまた響いた 空気が薄い、 沙織ちゃんが笑顔でドアをあける 私の呼吸が苦しくなる ドアに足をかけてきた 委員会のやつらは 目の前だ 息が苦しい 「わ、私が夫だよれ」
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