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陽太くんと僕は小学生の三年生だ。
陽太くんは昆虫博士で僕は植物図鑑だ。
あかねは陽太くんの彼女みたいなフリして近づいてくる悪いやつで、珠代は僕の好きなタイプの子だ。
澤田は陽太くんのマンションの三階に住んでいて、澤田の家の扉は緑色で、少しハゲかけてる。
ベルを鳴らすと「リン」となるらしいが、その後は何も起こらないらしい。扉を叩くと中から大人が出てくる。あのベルは別に中には鳴らないと、澤田が言っていた。
僕も陽太くんも小学生三年生だが、明日には35歳になる。正直こんなに長く小学生をすると思ってなくて、途中で何度も人生を辞めたくなったりした。
でも、なんとか踏ん張って
お互い励まし合いながら三年生を続けてる。
ランドセルも4回は変えた。
話は変わるが、ランドセルは凄いね。ぺっちゃんこにならなくなったよ。本当に10年近く使えるよ。
卑しくも、僕と陽太くんで証明してしまったわけだが。
「陽太くんプール行かない?」
「やだよ、昆虫に餌やるんだろ。忘れたらまた、アカネになんか言われるんだよ」
陽太くんは甲虫のカブちゃんのお世話に大変だった。
「じゃあ一人で行こうかな」
僕は仕方がないのでプールに一人で行った。
もう更衣室に入るときに女子生徒がいたら入らなくなってしまい、僕と陽太くんは小学生6年生のプールの時間以外は参加できなくなっている。
「すみません、〇〇です。プールに参加します」
そう言って僕は僕より若い6年生の担任の吉村に許可を取った。
ザバーン
プールはいいなぁと思う。
僕はこのプールが好きだ。29年間ここが好きだ。
水の中に頭を埋めて
水面を見ると、テラテラと鏡のように光が弾けている。その奥に揺れて揺れて見えにくくなった水上の世界がある。そこにあるはずの世界は歪んで、僕の方が正しくなる。この世で唯一僕を許してくれるばしょだった。
鶴を折っていた
陽太くんと僕は喧嘩した。
些細な喧嘩だった。
鶴は見事にクシャクシャになり
僕も陽太くんも泣いた気がする
赤色の鶴と黒色の鶴だった。
真っ白な鶴を折っていた誰かが
僕らを見て笑っていたと思う
もう誰か思い出せない
1回めの三年1組の誰かだった。
あいつは、白い鶴だった。
予鈴が鳴って帰りの時間になった。
陽太くんに謝った
ほってプールに行ってごめん
って
そしたら、陽太くんはおんぶしてくれるなら許すってなった
僕らは喧嘩したらすぐに謝ることにしている。なるべく早く、なるべく素直に。そして、謝られたら許すことにしている。
僕は陽太くんをおんぶしながら学校を出た。
二人の影が伸びている。
年相応ぐらいに。
外の世界ではどんな風に生きていけたのだろうとふと思った。
「甲虫がさ、臭いんだよ」
「なんだよ、今更」
「昔から嫌いなんだよ、甲虫」
「そうだよな、嫌いだったよな」
「でもさ、下手に生きてるから甲虫とか詳しくなっちゃったんだよ」
「僕もだよ」
太陽が夕陽のくせに、暑かった
汗が滴り落ちていく
「カラオケにでも行く?」
陽太くんは僕にそう言った。
無性に大きな声が出したい。
僕もそう思って頷いた。
「凄いどうでもいいんだけど、一回だけは縮むスプーンを持ってたら何に使う?」
陽太くんは上を向いて答えた。
「それごと飲むよ、二度と大きくならないんだもん。無くしてしまわなきゃ」
陽太くんは無精髭を触りながら
そう呟いた
そんなことあるかよ
なんて、僕らは絶対に言わない。
「そんなこと」あるんだから
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