計算式

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「さあ、発表です。これが、幸せの公式です」 政府が公に発表したその数式は非常に美しいものであった。その美しさに人々は惚れ惚れしたそうだ。 「おれは、あの公式が信用ならない」 発表当初、酔っぱらったおじさんは、酒場でそのように呟いていたそうだ。 「私はあの通り生きることはどうしてもできないわ」 数式を否定する人は一定数いたが、しかし、それでもその支持率は非常に高く、せっせと数式のそれぞれのファクターを高めるために多くの人々は勤しんだ。 そして、その1年後。数式を開発した博士が、最適化する為の指針を発表した。 「日本人はまじめですからね」 海外メディアはあまりにユニークな日本の取り組みを驚き、その発端を作った博士に取材をしていた。その時の博士の言葉である。 「ですから、何度も説明しておりますが、幸せの定義をどのように捉えるかだと思います」 日本におけるクリーンエネルギーの生産、消費、再生産率は世界でも随一となった。クリーンエネルギーの種類はあの公式が発表されてから一つ増えた。それは、ヒューマンエネルギーと言われている。 「幸せの総量を個人の枠組みを外し、さらには未来まで引ききったとき、自己、他者、さらには未来の他者たち全てを最適化する方法はこれしかありません」 博士が論じたその話に納得してしまった日本人。他のどの国でも採用しなかったと言うのに、こればかりはお上の言うことを粛々とする日本人特有のものなのかもしれない。 その指針を受けた日本人はみな、整列をして体を引っ付けて長い長い列を作り、その列で暮らしている。 日本人全員が参加しているその列は長く、日本列島を二往復できるほどである。 ぴったりと前の人にくっつき、大人からおじいさん、おばあさんまで老若男女問わず並んでいる。 「ピーっ!」 体育で聞いた、あの高らかな笛の音が北海道と沖縄で同時に聞こえる。 すると、赤いビブスを着用した人間が、前の人にめがけて膝カックンをする。 そのカックンは綺麗にドミノ倒しのように、前の人へ、前の人へ始まりのエネルギーを伝えていくのだ。 一回の膝カックンでおよそ、日本を2周半できる。それを日に2回繰り返すだけで、ヒューマンエネルギーが生まれるそうだ。 数式を開発した博士はインタビューでこのようにも答えている。 「これが、宇宙の衛星からとらえた映像になります。見てください、とても美しいでしょう?」 博士は感嘆するばかりである。 「しかし、博士。これとその数式にどのような関係性があるのですか?」 首をかしげて博士が答える。 「さあ? さっぱり分かりません。どうしてこれがこの数式を満たすのか知らないのですが、なぜかコレしかなかったんです。まあ、そのうち気にならなくなりますよ。理由なんてのは。大体、科学なんてのは突き詰めれば、人間になんか理解できるわけがないところに到達するんですよ」 それよりもと、博士は衛星からのその膝カックン伝達動画の美しさを伝えた。なんとも美しい光景である。
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