スマートフォン

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「ん? 轟。どうした? そのスマートフォン」 僕は同僚から、非常に珍しい状況に陥った我がスマートフォンをめざとく見つけられて、どぎまぎとした。 「いやぁ……」 内心「見つかったか」と思い、舌打ちをしたい気持ちを押さえて、答える。 「妻に言われてさ。いつまでもいつまでもスマートフォンを触っていたらバカになるわよって」 同僚はしたり顔で答える。 「ははん。さてはそれで、そんな画面がガムテープがぐるぐるに巻かれているんだな」 「まあ、つまり、画面を強制的に物理的にロックされたわけよ」 「大変だなぁ」 とちっとも大変そうに思ってないだろう同僚は笑いながら言う。 まったく、これの大変さを分かってないよ。 昨晩の事である。 スマートフォンを触りすぎている轟を見て、妻がいい加減にしろと言ったわけである。 「家のこともあるのに、どうしてそんなに見る必要があるの? それで、どんないいことがあるのよ? それよりも、家のことをしっかりしてよ」 まあ、まったくその通りである。反論の余地が無い。 「こうなったら、あなたのスマートフォンを私が預かるわ」 「え?」 こうなったら、ってどういうこと? というセリフは辛うじて飲み込めたのに、びっくりした顔をしてしまった。しまった。 「なに? 文句がある? というかどう対処するつもりでいたの? 『あーごめんごめん』的なので乗り越えようとしたの?」 「いえ、いえ、滅相もありません」 「でしょ。じゃあ、貸して……」 さて、どうしたものか。冷静に考えて交渉をしなければならない。いいか、大事なのは、相手と自分の境界線をギリギリまで近づけることだ。 「なるほど、これ以上の無い対策だと思う。だが、ひとつだけ気になるのだが、スマートフォンを君預けてしまうと、もはやそれはなんだ? 預かり便利持ち運び可能PC and電話するし話せるし機器ではないか? それでは、連絡を取れない。僕は、まだ君に愛だけで電波を送る技術を習得できていないんだよ」 なるべく。そう、出来る限りなるべく、悪びれて言わなければならい。ほんの少しだけ、考えてもらえれば、隙が生まれるからさ。 「まあ、確かに。それじゃあ、通信料だけ払っているだけだもの。勿体無いわね」 「そうだよ」 これならば、この状況から脱することはできそうだと、安心をしていた。轟のそういうところが学習が無いやつだと思われるとろである。考えた先も考えるべきである。特に、とても特徴的な相手と対峙している時はだ。つまり妻だ。 「じゃあ、その画面のところ全部ガムテープぐるぐる巻きにしていい?」 「え?」 「なに? 画面見ないでほしいの!」 なるほど、これは仕方ない。  言われたとおりにしてみたというわけだ。 ということを、同僚に話していたら、電話が鳴っていた。 「あ、轟。電話が鳴ってるよ。出なよ」 ブルルーブルルーとスマートフォンが着信を伝えるために、ガムテープでぐるぐる巻きのまま、まるで身動きが取れない犯罪者に捕まって監禁されてる人のように振動していた。 「あははは。なあ。これって、どうやって出るの?」 おそらく妻からの電話だろう。いくらタップしたくても、スライドしたくても、どうしようもない。 何かを伝えるために、でも何も具体的なことは伝える気のない物体として、目の前で震えているそれを見ながら思うのだった。 これは、妻に出れなかったことを詫びることころからスタートしなければ。そう、最後にこう添えて 「いやあ、画面が無いと電話に出れないなんて知らなくてさ」
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