病気

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病気

「どうしましたか?」 「いえ、何か大きな手違いをしたような気がして」 私は医者を前にしてそう口にした。 何か大切な事を思い出せないでいた気がした。 「そうですか。皆さん同じような事を言われます。この、病特有の治療の効果とお思いください」 医者がそう言って、私の体を問診した。体の至る所を触り、私の体の様子を見ている。 「しかし、何故こんな事になるんでしょうか?」 私は、2日前に死んだ。 それは間違いない。 生物的にも完全にそうなっているようだ。 しかし、何故か魂が残ってしまっているらしい。 この病気は「死を超えてしまう病気」と言われている。 世界にも多くの症例が出ているらしく、私はこのようにして治療を受けているのだ。 「先生、具体的にはどんな治療をするのですか?」 そう、私が訊いたら、医者はほんの少し困った顔を見せた。 「まあ、貴方に言うのも変なのですが、私はこれを治療とは呼びたく無いのですね。とはいえ、簡単にお伝えしますと、貴方がもう一度ちゃんと死ぬように仕向けます。まあ、どんな風にすれば良いかはある程度分かってきています。あまり、気になさらずに」 「それは、やはり痛いのでしょうか?」 「それは大丈夫です。貴方の脳も神経も随分と壊死しております。肉体的にはそこまで苦しみは有りませんよ」 医者は哀しそうに私を見た。 「ではどのようにするのですか?」 「そうですね、魂が入ってそうなところを適当に見つけて壊していきます。そこがどこかは人によって違うのてますが、必ず見つけますので」 そう言うと、医者は大きなハンマーを持ち出した。 それから大きく振りかぶり、私の右肩を躊躇なく叩き壊した。壊死しはじめた身体は簡単に吹き飛び、大きな衝撃を感じたと思えば、後方で「ぐちゃり」と音が聞こえた。 振り向くと、私の右腕が壁に張り付いていた。医者はそのまま、腕のところまで歩き、その腕を左手で持ったままもう一度ハンマーを振りかぶった。 私の右腕の肘関節がぐしゃりと潰れて、上腕部と離れてしまった。 「どうですか?」 「いえ? 特に……」 「そうですか…ここでは無かったですね……また、明日、ここに来て頂けますか?」 私はそう言われて、とぼとぼと歩いて帰ることにした。身体のバランスがとても取りづらく、歩くのが億劫であった。 医者は、患者が帰ったのを確認して一息ついた。 「変な病気だよ。死んだ事が分からなくなるなんて」 看護婦が部屋に入り、後始末をしていた。 「それ用の部屋を作りますかねー…」 医者は誰にとも分からないように独り言を呟いた。
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