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「それダメじゃん……」
僕はその後、すぐに深理の携帯に連絡して、泣きじゃくった。
抑えていた感情が、堰を切って溢れ出して、多分何を言っているのか深理には殆ど聞き取れなかっただろう。
ただ黙って、うん、うん、と頷いていた深理は、いつもより落ち着いた低い声でこう答えた。
「すぐ行くから。待ってろ」
タクシーを飛ばして駆け付けた深理は、あの日、人違いだと気付いた時と同じような泣き出しそうな顔で、言葉もなく僕を抱き寄せる。
ただお互いがお互いを貪るように、キスをして抱きしめて、深理の綺麗な手が僕の頭を首筋に引き寄せた。
「心配した……」
「ごめ……なさぃ……」
「お前は代わりじゃないよ。俺は、お前と生きるって決めたの。二年前、お前を見つけた時は確かに間違えた。後ろ姿があんまりにも似てたから。だけど、どこかで分かってた。遺書もあって、あの島に行った水輝が帰りの船に乗ってないのなら、どこに行ったのかは明白だ」
「……でも」
「最後まで聞け」
「……ん」
「俺がお前と二年間会わなかったのはケジメだ。水輝が失踪して七年、この前失踪宣告が確定された。それまで時間が欲しかった。縁を好きになる予感はあったから」
失踪者が死んだと確定する失踪宣告。
つまり深理は、水輝さんが死んだと確定されるまで、僕と会わないと決めていたのだ。
愛なんて猛毒だと思っていた。
僕の知るそれは蝕み、壊して、命さえ奪うものだったのに、僕は今、愛で生きようとしている。
もしかしたら、最愛の彼を蝕むかもしれないそれが、僕の中にあることが嬉しいのだ。
「ねぇ、縁。好きな人とキス……叶った?」
「……う、ん?」
「縁の好きな人、誰?」
「……ちょ、それはズルッ」
「ズルくなぁい」
彼の笑い声の為に、このズルくて愛しい男の為に、僕は生きるんだ。
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