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翌日9時過ぎ。澪田が出勤すると、待ち構えていたかのように工藤が駆け寄って来た。
「え!?あ、お、おはよう。」
「おはようじゃないですよ!昨日、あの後また色々あったんですって!?」
「まぁな。だが、間崎さんは命を取りとめた。犠牲者で唯一だ。」
澪田は自席に向かいながら答えた。
「…昨日はすみませんでした。あの後すぐに帰ってしまって。」
工藤は昨日、上河内たちの無惨な現場を見てから、気分が優れずに顔色が悪かったため、滝井の命令で自宅に帰り、ずっと眠ってしまっていた。
「気にするな。お前の反応は正常だよ。」
「あと、さっき池田係長から聞きましたが、鬼龍院千草は実は月見里風花さんっていう方だと。名前は聞いたことはあるんですが、自分が来る前の話ですんで、詳しく知らなくて。この事件を解決するためにも教えてくれませんか?」
工藤は澪田に頭を下げた。
「おいおい、頭なんて下げる話じゃないだろうが。」
「だって係長、この話したがらないじゃないですか。前にも聞いたことがあったけど、上手くはぐらかされましたし。」
確かに澪田はこの話を工藤にしたことは無かった。工藤の指摘とおり、あの事件のことは誰にも話したくはなかった。勿論、警察の人間が一人亡くなったことは世間にも公表されている事件ではあったが、その詳細は当時の警察の人間と月見里の関係者のごく一部しか知らないことだった。
「…そうだったな。なら後で話すよ。」
「ありがとうございます。」
「…ん?」
澪田のスマホが震え、ポケットから取り出すと紺野からの着信だった。
「もしもし…」
その頃、捜査本部には不破に呼ばれた天粕と本海が集まっていた。
「天粕、この報告の内容は本当か?人間がパソコン画面に吸い込まれていたってのは。」
「…え!?」
初耳の本海はギョッとした表情を浮かべた。
「はい、この目で澪田刑事と一緒に見ましたので。実際、報告書とおりに間崎さんの左腕は引き千切られており、その腕自体も見つかっていません。本人は一命は取り留めましたが、まだ意識は回復していないようで。目覚めたら本人にも話を伺う予定です。」
「…世間には言えんよなぁ。」
不破は椅子を半回転させて、背中を向けた。
「実際今起こってることを世間に何て伝えたらいいんだ?」
「…いや、まぁ…そうですね、難しいかと。」
天粕の答えに本海も頷いた。
「マスコミの対応を考えなくてはならない。もう一部のマスコミでは、幽霊殺人なんて言葉が出始めてるそうだ。」
「確かに、ネットカフェの事件は詳細発表していないですからね。異例なことですよ。」
「…全く、とんだ事件だよ。」
「あのぅ、管理監。私たちが呼ばれた理由は?」
本海が恐る恐る質問した。
「あぁそうだった。…彼に会ってきて欲しいんだ。」
不破は内ポケットから写真を一枚取り出すと、振り向きながら机に置いた。
「…この男性は?」
「月見里風花の婚約者だった男だ。」
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