第一節 お前、グロいの大丈夫か?

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澪田(みおだ)係長、お疲れ様です。」 「おう。…仏さんはこの男性か。」 刑事課第一捜査犯係長の澪田柊二(しゅうじ)は、通報があった現場に着くなり、被害者の異様な姿に目を奪われた。被害者は、パソコンだけが置かれた机で椅子に座ったまま眠っているように息絶えていたが、耳から多量の何かが滴り落ちていて、刺激臭を放っていたのだ。 「係長、被害者ですが…」 澪田の部下である女性刑事の赤橋深雪(あかはしみゆき)がメモを見ながら澪田に説明を始めた。 「社員証がありまして、会社にも確認済みの情報です。生田目虎太(なまためとらた)28歳、IT企業に勤めていました。第一発見者の大家さんの話ですと、ここしばらくは在宅ワークばかりで家にいることが多かったようです。」 「大家さんは、一人暮らしの生田目さんを気遣って、時々おかずの差し入れをしていたようで、午後2時過ぎに差し入れに来た際に発見されたようです。」 同じく部下で赤橋の後輩に当たる男性刑事の工藤鋼太郎(くどうこうたろう)が言った。 「なるほどな。…で、考えられる死因は?」 「鑑識も現状では難しいと。ただ、この耳から垂れているものですが…。」 工藤が遺体に近付きながら指差した。ドロリとした内臓のような物質が耳から溢れ、机にもその物質が広がっており、気色悪い見た目に赤橋は目を背けていた。加えて腐敗も始めているのか刺激臭も発しており、澪田は赤橋と同じように遠慮したい気持ちだったが、仕方なく遺体に近付いた。 「脳みそです。」 工藤はサラリと言った。 「え!?これが!?」 「えぇ、恐らくは。何かが原因で脳みそが溶けて耳から流れ出たんだと思います。」 工藤は動じることなく、気色悪く机に広がっている物質を見て頷きながら言った。 「お前、そんなサラリと言うことじゃないだろ。」 「でも、実際そうですし。あとは法医学の先生に任せるしかないかと。」 工藤は新人の頃から、どんなに悲惨な状態の遺体にも動じている姿を見せたことは無かったことを澪田も知ってはいる。知ってはいるが、こんなよくわからない状態の遺体は中々見たことない。あの精神力は凄いが、遺体を見ても大した感情を抱かない工藤が刑事に向いているのかどうか…澪田はそんなことを考えていた。 「普段から変なゲームばっかやってるからよ。」 赤橋が呆れた表情で言った。 「変なゲームじゃないです。バイオレンスホラーっていうちゃんとしたこだわりのジャンルですよ。」 「要は人殺しゲームでしょ。グロい場面がいっぱいある。」 赤橋の馬鹿にした言い方に、工藤は不機嫌そうな表情を浮かべて外に出ていった。 「…赤橋、もうちょい優しく言えよ。」 「だって異常ですよ。この遺体見ても何ともないなんて。」 「…まぁ、確かにな。…とにかく、工藤連れ戻してこい!現場検証続けるぞ。」 赤橋は「はぁい。」と面倒くさそうに外に出ていった。 「ったく。…ん?」 澪田は机の下に紙切れが落ちているのを見つけ、手袋をしてからその紙を拾った。 「ん?何て書いてあるんだ。れ…い?」 乱筆なで『れい』と書いてあるメモ紙だった。死の直前に書いたのか、『い』の後にはまだ何か続きそうな書き方にも見えた。澪田は、証拠品としてビニール袋に紙を入れた。
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