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「こんばんは。小阪田さんですよね?」
時刻は21時10分。「お疲れさまでした。」という声と共に喫茶店から出てきた小阪田を池田と道永が待ち伏せしていた。
「…刑事さんですか?」
小阪田は驚きもせずに聞き返した。
「あぁ。」
池田と道永は警察手帳を見せた。
「話なら既にしてますけど。確か滝井さんと不破さんだったっけかな?何か偉そうな方たちに。信じて貰えてるかは別ですけどね。」
「あの後、再び暴走して、仲間が6人死んだ。」
「…そう、それは予想外ね。あなたたちが余計なことでもしたんじゃないですか?霊を呼び起こすようなこと。」
小阪田の言葉に、池田はあの時のことを思い出していた。
数時間前。
池田は、普段とは違い、生き生きとしていた上河内を止めることなく、作業を見守っていた。上河内は何かをブツブツ言いながら、パソコンの中のあらゆるファイルを確認していた。
「なぁ夏海、何してんだ?」
「一つの仮説にすぎないですが、霊の構造が電子媒体と同様なら、パソコンの中に姿を隠すことができます。一つ一つのファイルの中にも。霊も時代とともに進化してるんですよ。江戸時代の柳の下の白装束の幽霊とは違うんです。」
「つまり、このパソコンの中にまだ霊が隠れてるって言いたいのか。」
「可能性の一つです。既に別の媒体に移ってる可能性もあります。…そう言えば、メール来てましたよね。」
「メール…あぁ、どうやったか知らないが伊達さんからこの場にいた全員に送られてきた気味が悪いやつか。」
「…そのメールに隠れてるかもしれない。」
「夏海、お前霊には興味ないって言ってたの、嘘だろ。表情に出てんぞ。」
池田はスマホのメールボックスを開きながら言った。
「ほれ、これだろ。動画ファイル付き。」
「もしかしたら、誰かの動画ファイルに彼女が隠れてるかもしれませんよ。開いていいですか?」
「いいけど…万が一この中に鬼龍院千草がいたらどうなる?」
「私にも分かりません。でも、何か解決の糸口を探すには、彼女に会う必要があるかと。」
「すみません、私たち署に先に戻りますね。今連絡がありまして、伊達さんのご家族が署に来られるとのことだったので。」
事務室の外から道永の声が聞こえた。池田は、事務室の入口に向かい、顔を出した。
「あぁ、すまないが頼むよ。…本海さん、大丈夫か?」
本海はすっかり顔色が悪く、覇気がなかった。本海は、とりあえずコクンと頷いた。
「彼女、ほんとに幽霊とかは苦手で。生身の遺体とかは大丈夫なんですけどね。…あと、上河内さんのことを少し怖がってて。」
「あぁ、今は何か水を得た魚のように生き生きと幽霊探してるからな。」
池田は苦笑いを浮かべた。二人が出ていくと、池田はすぐに上河内の元に戻った。
「悪い悪い。」
「いえ、じゃあ開きますよ。」
「…あ、あぁ。」
ー あの時、俺は何で夏海を止めなかったんだ。まさか、俺に送られてきた動画ファイルの中に潜んでいたとは。
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