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その後はまさに地獄絵図だった。夏海がファイルを開いた途端、部屋の電気が激しく点滅を繰り返し、パソコンや部屋の隅にあった電子レンジが誤作動を始めた。一瞬視線を逸して再び夏海に目を向けると、見知らぬ女が夏海の前に立っていた。でも、その女は生身の人間じゃなく、立体映像のような姿だった。
そして、一瞬で夏海はその場で倒れた。その場にいた鑑識の人たちが青い顔をしていると、その女は、視線を俺たちに向けた。
駄目だ、死ぬ。俺は我を失っていた。気が付くと、我先にと外に向かって走っていた。我を取り戻した時には、目の前に澪田が倒れていた。
後悔しかない。後悔しかないが、強がって振る舞っていないとすぐに崩れ落ちてしまう気がした。夏海があんなことになって大丈夫かと何人にも聞かれたが、大丈夫なわけがない。だが、大丈夫じゃないことを認めたくない。今の俺には、夏海の復讐をするという目的でのみ動く人形と化すしか、自分を保つ術がないのだ。
「…さん。…池田さん。…池田さん!」
「…っ!?」
「大丈夫ですか?何かずっとぼーっとしてましたけど。」
「あ、あぁすまない。」
「それで、刑事さん。何かしませんでした?」
小阪田が再び質問をした。
「…メールのファイルを開いた。」
「忠告したじゃないですか、開いたら死ぬって。」
呆気なく言い放った小阪田の言葉に、池田の中で何かが吹っ切れた。
「ならよ、もっとちゃんと説明してくれよ!誰が信じんだよ、メール開いたら死ぬなんてよ!!」
池田は突如、小阪田の肩に掴みかかった。
「ちょ、ちょっと池田さん!?」
道永が慌てて引き離そうとするが、力では敵わず後ろに突き飛ばされてしまった。
「なぁ!何なんだよ!あの鬼龍院千草ってのは!俺の部下が犠牲になったんだ!あいつを捕まえる方法を教えてくれ!!」
小阪田は池田にされるがまま身体を揺さぶられていた。その騒ぎに気付いた通行人の男性数人が池田を背後から雁字搦めにして、引き摺られるように小阪田から引き離された。
「誰か!警察に連絡を!」
通行人の一人が池田を取り押さえながら叫ぶと、道永が警察手帳を見せながら申し訳なさそうに近付いた。
「すみません、彼も警察です。」
「…へ?」
池田を取り押さえていた男性陣はゆっくりと手を離した。池田はそのまま地面に大の字のまま、静かに涙を流した。
道永が必死に通行人に頭を下げながら、池田の上半身を無理矢理に起こした。
「池田さん!しっかりしてください!!」
「…あ、あぁ。…すまない。」
「刑事さん。」
小阪田が中腰になり、池田の顔を見た。
「刑事さんは、もう霊の存在を信じてるの?」
…信じるも何も、信じざるを得ないだろ。俺が見てきたものは、口で誰かに語っても到底信じて貰えるものじゃない。そう、別に誰かに信じて貰いたいわけじゃない。今はただ、夏海のために、事件を解決するためには、霊の存在を信じるのが一番近道だと分かっている。
「あぁ、信じるよ。」
池田の答えに小阪田はニコッと笑った。
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