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「史緒、例のおっさんは帰ったぞ。」
澪田は紺野の執務室のドアを開けながら言った。紺野は、安堵の表情を浮かべた。
「助かったわ。しつこくて、あの人。一旦外に出たんだけど、また職場に戻って来ちゃった。」
「どこで史緒の存在を知られたんだ?」
「さぁ、わからないわ。でも、来てくれて良かった。これを柊二に持ってくとこだったのよ。」
紺野は澪田に上河内たちの解剖の結果を記した紙を渡した。
「…相変わらず、それぞれ内臓の一部が消滅していたわ。」
「…そうか。」
「でね、一つ推測出来ることがあって。柊二から間崎さんの話聞いた時に思ったのよ。風花ちゃんは内臓は集め終わって、身体の外側、入れ物を作り始めてるって。…もう一回聞くけど、本当に風花ちゃんだったのよね?」
悲しげな表情で問い掛ける紺野に、澪田は溜め息をつきながら頷いた。
「…間崎さんが腕を取られたのは、そういうことか。風花は、一体の人間を創り出そうとしてるってことか。」
「次は右腕ですかね。」
道永が呟くと、三人は一斉に道永に視線を向けた。
「な、何ですか!?た、単純に左腕の次は右腕かと思っただけですよ。」
「…左足の可能性もあるかも。でも、その月見里風花の目的は結局何なんですか?」
工藤が誰になく問い掛けた。
「小阪田は、風花は電子媒体の中でしか生きられないと言っていた。生身の人間の身体が欲しい…そう思ってるのかもな。」
「風花ちゃん、可哀想な亡くなり方だったものね。」
紺野がうつ向きながら呟いた。
「そういえば、その月見里風花の話、まだ聞けてなかった。」
「私も知りたいです。」
工藤と道永は澪田に距離を詰めながら言った。
「わ、分かったよ。」
澪田は、紺野の隣の椅子に腰掛けて、話を続けた。
「俺が刑事課に配属された年、今から八年前のことだ。俺と一緒に刑事課に配属されたのが月見里風花で、矢那川さんっていう先輩と俺、そして風花で一つのチームだった。配属されてから僅か一週間後に、大きな事件が起きた。八年前のこの辺で起きた大きな事件、わかるだろ?」
「…八年前って、一家惨殺があったあの事件ですか?」
道永の答えに澪田は頷いた。道永の隣の工藤は、全く閃かなった自分を悔いていた。
「そうだ。事件発生後、当然県警本部の人間も加わり、大規模な捜査が行われた。俺たちは、周辺の聞き込みがメインで、あの頃は今みたいに不平不満も言わずに、一心不乱に仕事をしていたよ。」
澪田が苦笑いをしながら言うと、工藤も「ははは」と笑った。
「…だが、悲劇は起きた。」
澪田が声のトーンが変わった。工藤は真顔に戻り、澪田の続きに集中した。
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