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澪田よりも高く上げられた紺野は脚をバタつかせ、ついには身体を痙攣させていた。
「史緒!!」
涙を流しながら手を伸ばす澪田。小阪田は早く塵と化すことを呪文も唱えながら祈っていた。
ついに右手全てが塵となり消滅すると、紺野が重力のまま落下し、澪田がかろうじて受け止めた。
「史緒!!」
紺野は口から泡を吹いたまま気を失っていた。口元に顔を近付けると呼吸をしていないことが分かった。
「救急車!救急車を!!」
スマホが手元にない澪田は大声で叫び、小阪田が慌てて電話を掛けた。
「史緒、死ぬな!」
澪田は心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。
数分後に来た救急車により、池田たちも漸く騒ぎに気が付き、澪田の元に駆け寄ってきた。
「澪田…一体何があったんだ?」
「池田、悪いが史緒の救急車に一緒に乗って行ってくれ。」
「それは構わないが、お前じゃなくていいのか?」
「俺にはまだやらないといけないことがある。史緒に何か変化があったら連絡くれ。」
「…分かったよ。無茶するなよ。」
池田はそう言って救急車に乗り込んだ。
「紺野先生、大丈夫なんですか?」
道永が心配そうに聞いた。
「救急車が来るまでの心臓マッサージと人工呼吸に効果があったみたいでな。救急隊の人からは呼吸は戻ってるって言われた。後はもう医者と本人の気力に賭けるしかないだろ。」
「そうですか。…それで、一体何があったんですか?」
澪田は道端のスマホに視線を向けて、起きたことを道端に話した。
「…じゃあ、最後のターゲットは紺野先生の頭ってことですか。…酷い。」
「今は何とか免れたが、また史緒が襲われる可能性がある。何としても風花を…いや、風花の中にいるふざけた野郎を風花から追い出さないとならねぇんだ。」
「澪田刑事、ちょっとこっちに来て。」
小阪田に呼ばれ、地面に落ちたままのスマホに近付いた澪田と道永。画面は電源が落ちたのか真っ暗で、ひび割れていた。
「…風花はどうなったんだ?」
「もうここにはいない。あの御札を通じて分かったの、風花さんの中に入った悪霊の正体が。」
「…一体何なんだ。」
「霊はね、最期の瞬間の場所に留まるのが基本。行きましょ、多分そこにいるはず。」
澪田は、小阪田の案内に従って車を数分走らせた。
「ここよ。」
小阪田の指示で澪田は車を停車させた。道永が助手席の窓から見た光景は、明らかに空き家だと分かる草木が茂り無造作に放置された一軒家だった。
澪田はその家を見て納得し、溜め息をついた。
「…この家ですか?何なんです?」
道永の問い掛けに澪田が答えた。
「…この家は俺たちが捜査した一家惨殺事件があった現場、絢川家だよ。」
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