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車から降りた時、澪田のスマホが鳴った。また、風花の可能性もあると思ったが、画面には天粕の名が表示されており、電話に出た。
「もしもし、澪田です。」
「お前たち今どこにいるんだ。池田刑事は紺野先生に付き添ってるって聞いてな。」
「…天粕さん、俺あの日以来かもしれませんよ、ここに来たの。」
「…は?」
「絢川家にいます。風花の中に入った霊とここが関係してるみたいです。」
「…なんてことだ。す、すぐに応援に行く。本海、車を用意してくれ!あ、安全運転…あ、俺が運転するから。」
電話の向こうのやり取りを静かに聞いていた澪田だった。
「す、すまん。じゃあ後ほど。」
電話が終わると、澪田は家の前まで移動し、朽ちて錆びている門をギィーという音とともに開いた。
「…小阪田さん、中にいるのか?」
小阪田は頷いた。
「しかし、中と言っても鍵掛かって…」
パリーンッ!澪田の言葉と重なるようにガラスが割れた音がした。視線を向けると道永が玄関から一番近い部屋の窓を庭にあったレンガで叩き割っていた。
「ちょ、お前…。」
「責任なら自分で取ります。今はとにかく急ぎましょう。」
「…ふ。ったく。」
澪田は残ったガラスを割り、手を入れて解錠すると窓を開けた。中は和室で、当時の物が残されたままだった。澪田から順に土足のまま上がり込むと、ギシギシと音を鳴らす腐った床に気を配りながら歩みを進めた。
「澪田係長、この一家で何が起きたんですか。」
「あぁ、しっかりと話したことなかったな。…この家に住んでいた絢川純也、妻の若菜、まだ一歳の子どもの三人が何者かにめった刺しにされて殺されたんだ。特段、盗まれた物も無くて、金目当ての犯行は否定された。」
「…恨まれてたんですかね。」
「動機は不明のままだ。容疑者の狩野は拘置所で自殺しちまった。共犯だと分かった宇都宮も矢那川ももうこの世にいない。…待て。」
先頭を歩いていた澪田は足を止めた。
「ど、どうしたんですか?」
「しっ!」
澪田には明らかに何者かの気配がしていた。チラリと小阪田を見ると、小阪田はコクンと頷いた。全く感じていない道永は二人を交互に見ながら不機嫌そうに膨れた。
澪田はこの先のドアが開いている部屋に嫌な気配を感じていた。そう、この先の部屋では当時、主人の絢川純也の遺体が見つかった場所だ。風花の中にいたのは明らかに男の霊だった。ならば、この純也の霊であるはずだ。澪田は廊下から部屋をゆっくりと覗き込んだ。
「っ!?」
覗き込んだ瞬間、2センチ先に風花の顔があり、澪田は驚いて尻もちをついた。
「来たのか。」
「逃げて。」
風花からは2つの声が同時に聞こえた。
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